第63話 割に合わない一日
その日は帰り着くと、すぐに装備を脱ぎ捨てて泥のように眠った。
翌日は月曜、容赦なく現場。
だからというわけではなく、緊張から解き放たれた安心感と何より疲労。
眠ったというより、気を失ったという表現が正しかった。
翌朝、まだ疲労全開だったが身体は楽をさせてくれず、キッチリ目を覚ました。
「容赦ないな、俺」
と、自分への抗議を呟き身体を起こそうとする。
途端全身が強張る。
まるで重りを全身に巻かれているかのようなゆっくりでぎこちない動きで身体を起こす。
立ち上がろうとすると、足に激痛が走る。
足全体に擦り傷があるかの如く痛い。
パジャマをめくってみたが、やはり傷はなかった。
激痛に耐え、やっとこさで着替え家を出る。
いつもなら方子と出くわす時間なのだが、そうはならなかった。
ペンギンのような足取りで、なんとか遅刻せず現場到着した俺を出迎えた所長を始め職人たち。
『鉄人様のおな〜り〜!』
「何ですか、そのフザケた出囃子みたいな口上は⋯」
俺は全身の痛みもあり、不機嫌そうに答えた。
『そう怒るなtetsu!これでも、讃えとるんや』
所長はそういって背中をドンと叩いた。
「イテッ!」
思わず顔を顰める。
『筋肉痛か?名誉の負傷だな』
さも楽しそうに言う。
「全身ボロボロですよ!それより、応援くらい来てくれても良くないですか?」
恨み言のように言った俺に
『ゴールの公園でみんなで待っとったんやが、いつまで経っても帰って来んから、解散したんや』
『そうだ!休みの日にわざわざ行ったんだぞ、家族連れて』
職人たちも口々に言う。
真偽はわからないが、規定時間内に戻れなかったわけだから文句の言いようがない。
『ということで、完歩での呑みに連れて行く御褒美は無しだ!』
『と言いたいところだが、ワシも鬼じゃない。完歩したのは事実やから、今日一日休憩所でやすんどれ』
『やったなtetsu!』
元々呑みの件は期待してなかったが、借りを作ったみたいで納得いかない。
しかし、筋肉痛には勝てないのでそれで手を打つことにした。
やはり、俺は俺のままだ。
結局、その日は貧乏性でなんだかんだでちょこちょこ仕事をする俺、忙しくなかった事もあり無事終わった。
昼過ぎに杖をついた山田さんと付き添いの澪さんが通ったらしいが、間の悪い俺とは出くわさなかった。
帰りも朝よりは段違いだがまだ筋肉痛があり、牛歩でなんとか帰宅。
階段前で降りてくる方子と会った。
『今帰りですか?昨日はお疲れ様でした。だいぶ顔色いいみたいですね。昨日は死にそうな顔でした』
そういう方子は平日夕方なのにラフな格好だ。
「今日は仕事早かったのか?」
『昨日を休日出勤扱いで今日は代休なんです〜』
なんてホワイトな会社なんだ!それとも新人だからか?
『大会の様子を聞きたいなと思ったんですが、またにしたほうがいいみたいですね』
「そうしてくれ」
ひらひらと手を振り部屋に入った俺。
机の上には“仮”完歩証明書があった。
割に合わない気もするが、まあ悪くない。




