表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/65

第62話 それでもたどり着いた

しばらく海岸沿いを足を引きずるように進む。

正直足は重いのに、前に出るのをやめない。

夜中の応急処置がなければ、ここまで来られなかっただろう。

しかし、平坦な道のはずなのに、急な坂を登っているみたいに足が上がらない。

参加者もまばらとはいわないが、ゼッケンをつけていないと気づかないくらい散在している。

“100kmウォーク ゴールまであと10キロ”

手書きのイラストの入った看板が最後の踏ん張りを促すかのように立っている。

横目でチラと見て通り過ぎる。

ペースは変えない。変えられない。

自分の意思で歩いている感覚は、もう薄かった。

何かに引っ張られているみたいだった。

“身体が教えてくれる”なんてウソだ。

身体はとうの昔に白旗をあげているが、気力だけで進むしかない。

逆に身体はちゃんとサインを出したのだから、リタイアするべきだったのかもしれない。

“出るだけです”澪さんから訊かれた時、俺はそう言ったが意地になり歩いている。

というか、何故かゴールしないといけない使命感に駆られている。

それに、ずっと感じている誰かの足取りをなぞっている感覚、その正体にも。

今や、それを確かめるために、歩いている気がした。

ゴール地点の公園が遥か彼方だが目に入るようになった途端、すでにゴールした参加者とすれ違う。

誰もが疲れ果ててはいるが、達成感に満ちた表情をしている。

『もう少しです。負けないで』

『頑張れ!』

口々に声をかけてくれる。

しかし、俺はそれに応えられず視線だけで礼をいい歩を進めた。

なんとかたどり着いたゴールの公園。

人は多いが、思ったほどの賑わいはない。

誰もが静かに座り込んでいる。

思っていたような歓声もない。

よく見ると、一部のテントはすでに片付け始めていた。

少しだけ拍子抜けしたが、

それでも足だけは止まらなかった。

『おめでとう!お疲れさまでした!』

次々とゴールする参加者とそれを出迎える人々。

みんな心からの祝福と労いの言葉にあふれている。

そんな中、完歩の充実感と共に誰にも出迎えられない一抹の寂しさを俺は感じていた。

そのまま進み、ゼッケンについたチップを外し事務局に向かう。

その途中呼び止められた。

『完歩お疲れさまでした!やりましたね!』

澪さんが笑顔で迎えてくれた。

どうやら、だいぶ前にゴールしていて、俺を探してくれていたらしい。

「さすが、経験者は違いますね!改めて見直しました」

そんな感想を伝えた俺に澪さんは

『ホントにお兄ちゃんは律儀なんだから⋯』

と柔らかなちょっと幼く見える笑顔を見せた。

『それよりも、早く事務局へ行かないと』

普段の雰囲気に戻った澪さんが急かす。

チップと引き換えに記念品や完歩証明書を受け取るためだ。

事務局で記念品などが入った袋と一緒に貰った完歩証明書はタイムのところが手書きだった。

『規定時間をオーバーしていたので、印字されていませんが完歩された事実は間違いなく称賛に値します。改めて完歩おめでとうございます!』

証明書を渡してくれたスタッフの人は心から労ってくれていた。

悔しさと達成感を滲ませた苦笑いを浮かべている俺に、後ろから足音とともに聞き慣れた声が響いた。

『残念!間に合わんかった。ゴールに私の笑顔で御褒美あげたかったとに』

振り向くと、若干息を弾ませた方子がいた。

「なんでココにいるんだ?サボりか?」

『酷いな〜!ちゃんと片付けてきましたよ。コッチは車で移動ですから。それより完歩おめでとうございます』

「タイムオーバーだけどな」

『そんな事ないですよ。次回目指せば!』

「今終わったばっかりなんだ。勘弁してくれ」

『そうですね。じゃ、私はいきます』

そう言うと事務局のほうに向かって歩いて行った。

撤収の手伝いだろう。

『意外とモテるんですね』

澪さんがイジワルっぽく言った。

「同じアパートの人で、スポンサー企業の社員さんなんですよ」

『私に言い訳しなくても。まあ、褒めて貰える相手が多いのは羨ましい事ですよ』

澪さんは少し寂しげに言った。

「澪さんも周り見ながらよう頑張ってましたよ!俺自身も助けて貰ってありがとうございました」

言って、頭を撫でた。

何故かそうしたかった。

澪さんは、びっくりした顔で見つめる。

やっぱりセクハラだったか?

しかし、

『もう、夜中じゃないから妹モードじゃありません。私もう行きますね』

と、怒ったというより照れた感じで澪さんは行ってしまった。

夜中?そういえば、夜中の曖昧な記憶を確かめるのを忘れてた。

まあ、今日は疲れすぎてるしまたでいいか。

ゴールの公園を後にする俺に

(お前もよう頑張ったな!)

――聞き慣れた声が、した気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ