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第60話 目覚めきらない朝

『起きてください。もうすぐ夜明けですよ』

そんな声に目を開ける。

人に起こされるのは、久しぶりな気がした。

「おはようございます、澪さん」

――言ってから、少しだけ引っかかった。

『えっ、まだ寝ぼけとるんですか?それにしても、他の女性の名前呼ぶとか、私やったら別れるわ!』

呆れたように頬を膨らませているのは、方子だった。

『電話より直接なほうがいいかと思って来たのに、なんで遊び人彼氏持ちのバーチャル体験させられんといかんのかな〜』

そう言いながら、コーヒーの紙コップを渡して来る。

『これで目を覚ましてください。インスタントで特別濃いめにしときました』

イマイチ頭がハッキリしないのは確かだが、寝ぼけているのとは違う。

現実に戻ったはずなのに、どこか足場が定まらない。

方子から受け取り、その熱さに現実なのだと思い知らされる。

『まだイベントは終わっとらんので、それ飲んでゴールを目指してください』

方子は気合をいれるように、ドンと背中を叩いた。

「まるで、学校に送り出す母親みたいだな」

『誰が!私はあなたのママじゃなかですよ!』

笑いながら言う方子、俺も意識ハッキリしてきてゆっくり立ち上がった。

とりあえず、足慣らしがてらエイド内を歩き回ってみる。

澪と一緒だったのが夢なのか現実なのか知りたかったが、澪の姿はなかった。

――最初からいなかったような気もして、少しだけ背筋が冷えた。

先に出発したのか、そもそも一緒じゃなかったのか分からないまま、立ち止まっていても答えは出そうになかった。

『無理はせんでくださいね。完歩できますように』

起こしてくれた方子にお礼だけでもと思ったが、作業に忙しくそう一言だけ残して戻って行った。

空は白み始めているが、太陽はまだ拝めない。

見慣れた景色じゃないのに、この朝を知ってる懐かしい錯覚に逆に落ち着きを取り戻し、エリア出口へと向かう。

みんな考える事は一緒なのか、出発組が多い。

『頑張ってくださいね。でも、無理は禁物』

すれ違うスタッフさんは誰しもがそう声をかけてきて言葉で背中を押してくれた。

最後の踏ん張りだ。――そう思ったのが、自分の意思だったのかは分からないまま、一歩を踏み出した。

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