第54話 今宵限りの兄妹
“短くても、横になると違う”
目を開けた瞬間、
身体が軽い。
『少しは疲れとれました?』
頭の上から声が降ってくる。
反射的に、身体を起こす。
『あまり急な動作は感心しませんね』
澪——?
なんで、目の前におる。
思わず、手が伸びる。
触れる寸前で、止めた。
『どうしたんですか?まだ寝ぼけてます?』
——動く。
この身体、動かせる。
「ワシ……いや、俺は、どのくらい寝てました?」
『30分くらいですよ。ロスというほどの時間じゃありません』
言いながら、言葉を選ぶ。
「良かった。じゃあ、出発します」
一刻も早く、この場を離れたかった。
『まだ休んでた方がいいと思うのですが……』
少し間を置いて、澪が続ける。
『御一緒しても、いいですよね?』
——勘弁してくれ。
断る理由も思いつかず、
ワシは小さく頷いた。
気づけば、歩幅が広くなっていた。
『急がなくてもロスにはなってませんって。急激なペース変化のほうが消耗します』
ワシは少しペースを落とす。
「何故、澪……さんは一緒に来ると言ったん?」
『深い意味はありませんけど、やっぱり知ってる人と歩きたいって思うのは自然じゃないですか?』
『……ちょっと、この前のお兄ちゃんっぽさを感じたのもありますけど』
「変わった?」
『雰囲気が、ちょっと。前に役割でやった時みたいな』
「なら、夜と月のせいじゃろう。
“真夜中は別の顔”っちゅうやつじゃ」
——我ながら、苦しい。
『そうかもしれませんね。じゃあ私も、今だけ妹になろうかな』
ワシは小さく息をつく。
「じゃあ、今宵限りの兄妹じゃな」
「でも、お前……長女じゃなかったか?」
『……実は、私が生まれる前に亡くなった兄がいるんです』
少しだけ、間が空く。
『だから時々、思い出すんです』
『私じゃない私が、顔を出すみたいに』
『ちょっとだけ、昔話に付き合ってくれますか?』
ワシは、何も言わずに頷いた。




