第53話 境目
先程までの急勾配は終わり、なだらかな場所にたどり着く。
いくつかの光が固まった部分があり、近づいてみる。
そこには大きな岩がいくつかあり、何かの記念碑のようでその台座部分の岩で休憩しているグループがいた。
「お疲れ様です」
『こんばんは。さっきの道急だったでしょう?ひと休みです』
「お友達同士での参加ですか?」
『いえ、ココで知り合ったんですよ。一人で黙々と歩いてると気が滅入るんで、声掛けちゃいました』
『ナンパされちゃいました』
と笑うのは、初老の男女。
その気持ちはよく分かった。
もう30キロは超えただろうか?勾配もあり身体の至るところに疲労だろう重りをまとっているようで、立ち止まりたくなる。
そんな時に誰かいると気が紛れるというか心強い。
こんな時、コミュ障は損をする。
仕事なら愛想振りまくのには慣れているのに、現場を離れると途端にダメだ。
この集団に入れてもらえば、またとないチャンスだ。
しかし、俺はしばらく座って休んだあと、挨拶して出発した。
「それじゃ、もう少し行ったらチェックポイントなんで、そこまでもうひと踏ん張りします」
『若い人はまだ元気だね。儂らはもう少し休んでいくよ。お互いゴールで!』
半分は離れる言い訳だが、チェックポイントまで歩くミッションを自らに課す。
制限時間には全く問題ないペースだが、ひと区切りをつけてリフレッシュをしたい気分だった。
それに、エイド地点も兼ねているので身体を一度休ませたい。
しばらくなだらかに続いたのぼりを超えると、温かな光が見えてきた。
似つかわしくない程の賑やかしさは、砂漠のキャラバンのようだった。
40km過ぎのチェックポイント。
ここで足を止める人も少なくないらしい。
その空気は、どこか“一区切り”を感じさせた。
進むか、やめるか。
ここは、そんな選択を迫る“関所”のようにも見えた。
少し進むと、エイドエリア兼休憩スペースの大きめなテントがあった。
座って休んでいる人もいるし、雑魚寝で仮眠を取る人もいる。
『お疲れ様です。思ったより早く到着ですね。無理してませんか?』
不意に声をかけられ振り向いた。
そこには澪さんがホットコーヒーをふたつ持って立っていた。
小さなリュックのまま、
疲れた様子も見せずに立っている。
若さ故というより、慣れた感じを醸し出す澪さんからひとつを受け取り口をつける。
「身体はまだイケると教えてくれてます」
『とはいっても、40kmを過ぎてるんでフルマラソンくらいの距離です。一旦、大丈夫と感じてても短時間でも休憩してください』
「しないとどうなります?」
『データ的にも看護師の経験からしても、完歩の確率が下がります』
「じゃあ、素直に指示に従わざるを得ないな」
と、言い訳がましく横になる。
「コーヒーで目が冴えてる」
『目を瞑るだけでも違います。膝枕します?』
澪さんが、変なテンションで冗談とも判断し辛い事を言う。
「勘弁して!目を瞑りますよ」
目を閉じたつもりだった。
次の瞬間には、もう意識がなかった。
——どこかで、呼ばれた気がした。




