第48話 悪くない一歩
まだ車が行き交う道の端を、長い列が慎重に歩いている。
確実に傾斜は増し、もうピクニック気分の者はいない。
ペースを上げる者、立ち止まる者。
大勢いるはずなのに、状況は十人十色で、周りに流されている余裕はない。
俺もまたそのひとりだ。
さっきまでの、集団に歩かされている感覚は消えていた。
代わりに、自分のペースが分からない。
前を行く数人に、少しずつ離される。
追いかけようとして、やめる。
後ろからの足音に急かされて、ピッチが乱れそうになる。
まるで、周り全てがペースを狂わせに来ているみたいだ。
——そもそも、自分のペースってなんだ。
時計を見る。
スタートから二時間。
まだ、10kmには届いていない。
単純に考えれば、100kmを25時間で歩くなら、1kmあたり15分くらいか。
計算の上では間に合う。
——本当にそうか。
後半の疲労なんて、まだ想像もつかない。
“身体が教えてくれる”
あの言葉を思い出す。
だが、俺の身体は何も教えてくれない。
——いや。
教えてくれていても、分かっていないだけかもしれない。
そんな風に考えていると、前方に座り込んでいる人影を見つける。
靴を脱いで足を気にしている。
見れば、全身下ろしたての装備でショーウィンドウから抜け出したかのようだ。
気合を入れて揃えたのだろう、靴も真新しいもので身体同様“硬さ”がとれていない感。
あの人はもう一人の俺だ。
俺も靴を新調していたらあんな風になっていた。
澪さんのおかげだな。
改めて、あの時の言葉を思い出す。
“始めは飛ばしすぎない”
今の俺のペースがどうなのかはわからないが、心は“飛ばして”いた。
まずは現状をみる。
足先は違和感はないのて靴擦れなどはできていないと思う。
山の中を歩いているので日差しは遮られているから汗もそれほどかいていない。
喉は渇いてないが、早めに補給すべきか?
ひとまず、落ち着いて“もう一人の俺”の横を通り過ぎる。
チラと見た感じ、大きなダメージはないようなので心の中でエールを送った。
木漏れ日がキラキラしてキレイだ、鳥のさえずりが思ったより賑やかだ、木々の香りが頭をシャキッとさせる。
“人の振り見て我が振りなおせ”ではないが、地に足がついた気がした。踏み出した一歩が、思ったよりもしっかりと返ってきた。
——悪くない。
そのまま、もう一歩踏み出す。




