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第47話 身体が覚えている

中継が終わると、人だかりは仕事が終わったみたいに散っていき、また長い列に戻った。

タカさんは、いつの間にかはるか前を歩いていた。

実は本気で完歩を目指しているのだろうか。

あれが素なのかもしれない。

有名アナウンサーやタレントが、普段は無口だという話もよく聞くし、意外と根は真面目なんだろう。

——と、思った矢先。

『いや〜、ホントいい話題ありがとうございました。彼氏さんにもヨロシク。支え合って完歩できるといいですね。』

と、相変わらず元気なリポーターの声が響く。

言われた女性のほうは、あいかわらずキョトンとしている。天然なんだろうが、彼氏のサプライズのネタバレしてホント空気読めないリポーターだ。

知らないうちに恨み買うタイプだな。

男性が、苦笑いしながらこちらを見る。

『……今の、聞かなかったことにしてもらえます?』

「まあ、お察しします」

男性はまた苦笑いしたが、女性はまだ何が起きたのか分かっていない顔をしていた。

その空気ごと、少しずつ後ろに流れていく。

スタートは町中の公園だったが、住宅地を抜け郊外のショッピングモール群を過ぎると急に人が減り、ここからが本番だと感じさせる。

さっきまでの喧騒は何処に行ったのか、遊びの時間は終わったとばかり皆ギヤが変わったかのように顔つきが真剣になる。

思い思いのペースで進む集団は一段と長くなり、完歩への期待と不安を抱えたまま、淡々と歩いていく。

10kmを超えたあたりだろうか、一人の参加者と不意に歩幅があう。

60代を超えていると思われるが、足取りはしっかりしていて俺よりも軽装。

無駄な物を削ぎ落とし、歩くためにここにいると雰囲気が語っているような気がした。

しばらく並んで歩く。

靴音だけが、一定のリズムで続く。

やがて、その人が前を見たまま口を開いた。

『最初の二十キロは、まだ歩いたうちに入らん』

「そういうものですか」

『身体が温もっただけじゃ』

少し間があく。

『三十を越えたあたりから、だんだん嘘がつけんようになる』

「嘘、ですか」

『行けると思う自分と、無理だと言う足と』

それ以上は言わなかった。

歩幅は、変わらない。

平坦な道ではない。ペースも歩幅も変わるはずだ。

歩き慣れている、で済む話かもしれないが、“身体に覚え込ませている”と表現するほうが正しい気がした。

「何度も歩かれてるんですか?」

『これは初めてじゃが、いろんな場所を歩いとる。風景は違っても同じ“道”じゃから、身体が教えてくれる』

何故かはわからないが、どこかで聞いたような気がした。

その言葉の意味を、まだ知らない。

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