第43話 履かない靴下
大会まで数日。
“参加するだけだ”と思う自分と、“やり抜く”と言い切れない自分の間で、淡々と仕事をしていた。
ただ、行き帰りだけは歩く。
少しでも歩くことを身体に馴染ませる。
『後半は足より気持ちが折れます』
澪さんの言葉が引っかかっていた。
身体に覚えさせているのか、ただ落ち着かないだけなのか。
理由はよく分からない。
それでも、不思議と迷いはなかった。
そうする方が、収まりがいい。
そして前日の朝。
現場に着くと、ゲートの前に澪さんがいた。
「どうしたんですか?」
『少し多めに買ったので。よかったら使ってください』
絆創膏やテーピングを渡される。
『あと、これ。私にはサイズが合わなくて。あなたならちょうどいいかも』
紛れていたのは厚手のサイズが合わない靴下だった。
その日の仕事は、いつも通り終わった。
特別なことは何もない。
現場を出て、いつもの道を歩く。
ポケットの中で、さっき渡された靴下の袋が少しだけ嵩張る。
サイズの合わない靴下。
理由を聞きそびれたが、
わざわざ戻るほどの事でもない。
アパートに帰ると、ポストに何か入っていた。
『ノベルティの携行食です。一足お先にどうぞ』
方子からの差し入れだった。方子なりの発破なのだろう。
部屋に入り、荷物を一度床に並べた。
水。
ライト。
替えの靴下。
……替えの靴下。
さっきの袋を開けてみる。
厚手で、しっかりした作りだった。
新品だ。
一度手に取って、
結局、元の袋に戻した。
明日は早い。
そう思って電気を消す。
布団に入っても、なかなか眠れない。
“後半は足より気持ちが折れます”
暗い部屋で、その言葉だけが浮かんでいた。
目を閉じる。
歩けるうちに、歩く。
それくらいしか、できることはない。




