第41話 私のいるところまで
安請け合いで参加する事になった100kmウォーク。
成り行きとはいえ、他人任せにするのは嫌いな俺は受付にやってきていた。
大会事務局の仮設テントは、思っていたより簡素だった。
机と椅子が並び、ゼッケンの束と段ボールが置かれている。
「追加エントリーの方ですね」
スタッフが名簿を確認する。
名前を指差し、頷いた。
「こちらになります」
渡された封筒は、驚くほど軽かった。
中にはゼッケンと注意事項、それからスポンサー一覧の紙。
何気なく目を通す。
地元企業の名前が並ぶ中、見覚えのある社名があった。
――方子の会社だ。
思わず、もう一度見直す。
見間違いではない。
毎朝、彼女が首から下げている社員証のロゴと同じだった。
スポンサー。
つまり、この大会を支える側。
俺は、支えられる側。
妙な位置関係だな、と思った。
現場では、俺は外と内の境目に立っている。
だがここでは、完全に内側に入る者だった。封筒を閉じる。紙の重さは変わらないのに、持った感触だけが少し変わっていた。
いつもは境目に立っている。
今日は、その中に入る。
いつものようでいつもではないソワソワした感覚を感じながら帰宅すると
『あ』
背後から声がした。振り返ると、方子だった。
『聞きましたよ』
「何をです?」
『100kmウォーク』
どこから漏れたのか。
現場か、それともスポンサー経由か。
『出るんですね』
「出るだけです。完歩は期待されてません」
『そうなんですか』
少し間を置いて、
『知り合いが出るなら』
方子は続けた。
『少しは、やる気になりました』
「方子さんが出るわけじゃないでしょう」
『ボランティアです。後半のエイドに配置されとるんです』
「エイド?」
『食べ物とか飲み物とか配る場所です』
『だから、無理せんでいいですけど』
そして、少しだけ笑って言った。
『完歩できたら』
方子は事務的な顔のまま言った。
『デートくらい、してあげてもよかですよ』
「上からだな」
『冗談です』
間髪入れずに否定する。
『……まあ』
少しだけ間を置いて、
『私のおるところまでは、来てください』
その言葉の方が、冗談に聞こえなかった。




