第38話 約束
年々春と秋が短くなるのを感じる、暦の上では秋のまだうだるような暑さの日の事だった。
『ようtetsu、今日もご苦労ご苦労!』
「おはようございます、山田さん。今日は看護師さん御一緒じゃないんですか?」
『子供じゃないんじゃから、保護者なしでも動けるわい!』
「いえ、寂しいんじゃないかなと」
『あんな小娘に興味などないわい!』
ここ数日、姿を見せなかった山田さん。
今日は澪さんなしで1人で散歩らしい。
少し心配ではあったが、口ぶりはいつも通りいやいつも以上に元気だ。
現場前を通り過ぎる時は、逆に速度が上がるくらいに。
「ゆっくりで大丈夫ですよ」
『そんな年寄り扱いするな』
「すみません。でもココらへんは車の出入り口でデコボコしてるんで、皆さんに声かけしてるんで」
現場入り口は大型車が通るので、鉄板など敷いていてもデコボコしたり傾斜がついたりしてしまう。
『わかったわかった、あの小娘がいないと思ったらお前が代わりか!』
「そんなつもりはないんですが、お気をつけて⋯」
『じゃあな』
そう言いながら山田さんは、いつものように歩いていった。
俺も、仕事に戻り片付けを終わった頃、ふと曲がり角付近の電柱に目をやると、もたれかかった山田さんが。
休憩というには、長すぎる。
意地っ張りの山田さんの機嫌を損ねないように、周辺警備のフリをして近づく。
「美人でも見つけましたか?」
『ちょっと休憩していただけじゃ、心配すんな』
そう言って笑う。
いつもの調子だった。だが近づくと、顔色が悪い。
汗の量も、明らかに多い。
「使ってください」
警備員ボックスから持ってきた椅子を差し出す。
『また年寄り扱いして!と言いたいところだが、親切は無駄にするとバチがあたるからな。ありがとう。』
「ホント言うと、何日かお見かけしなかったんで、気になってたんですよ」
『男に好かれても嬉しくないわ!最近、病院の奴らが厳しくての。出してくれんのじゃ』
少し黙る。そして、
『じゃが、ワシにはあいつとの“約束”がある』
語る山田さんの顔色は相変わらず悪い。
『久しぶりに歩いたから、今日はこれくらいで戻るとしよう』
そう言って立ち上がり道を戻る足取りは先程に比べると明らかに重い。
入り口近くで立ち止まる。
俺は椅子を差し出し、日陰に座らせた。
『ワシは歩かにゃいかんのじゃ』
誰に言うでもなく、山田さんは呟く。
俺は何も言わず、澪さんに連絡した。




