第31話 収まりの悪さ
あの日の“収まりの良さ”。
まだ、その正体を判りかねている日々。
いっそ気のせいにしてしまうか?
だが、それをすると“違和感”からも逃げてしまうようでできない。
あの“収まりの良さ”のせいで、日頃のすべてが“収まりが悪い”ように思われていつもと変わらないのに落ち着かない。
そんな中、現れた澪さんは突然告げた。
『おはようございます』
「おはようございます」
『この前の件ですが⋯』
何故か一瞬躊躇った。問題があったのか?
「何かありましたか?」
『いえ、問題ありません』
『でも“演じた”瞬間、あなたは変わりました。』
「そりゃそうでしょう。“演じた”んですから。」
『そうなんですが、そうじゃないんです。』
「それは?」
『演じるなら、迷いがあるはずです。でも、あなたは迷わなかった。』
「それは仕事だから⋯」
『行動自体ではなく、“身体が反応した”事が演技ではない気がするんです。』
分かるような分からないような、でも澪さんははぐらかしている風ではない。
『まだ、私自身上手く説明できないんで、“固定”すなわち演技をお願いするのではなく、“観察”してみる事でデータを増やしたいと思うんです。』
「“固定”ではないという事は、俺は普段通りで過ごすって事ですか?」
『そうなります。普段のあなたの“中”にデータを見いだしたい』
最近の“収まりの悪さ”を抱えたまま、観察される。 それは、あまり気分のいいものではない。
「そんな事しても、何も変わらないんじゃ?」
『変わらないなら、それが答えです』
澪さんはあっさり言う。
『あなたは“変わらない”人だと』
それは、少し違う。
「……別に、変わる必要はないでしょう」
声が低い。
自分でもわかる。
澪さんは、逃がさない。
『必要の話ではありません』
『あなたは、変わらないと困る顔をしていました』
一瞬、言葉に詰まる。
「困ってません」
即答だった。
速すぎる。
『そうですか』
否定も肯定もせず、ただ観察する目。
それが、腹立たしい。
俺は歩道と車道の境界を確認する。
無意識に。
『ほら』
小さく言う。
『もう、背負っています』
「……仕事です」
少し強く言い切る。
言い切ったのに、収まりが悪い。
『あなたは、“収まりがいい”側に戻りたいんですよね』
「戻りたいというのはどういう意味で?」
澪さんは何も言わない。
ただ、観察している。
それが一番、収まりが悪い。
澪さんが去った後。
歩道と車道の境界を確認する。
無意識。
迷うな。
判断は早い方がいい。
昔、聞いた声がした。
……だから何だ。
仕事だ。
それで済ませるつもりだった。
なのに、収まりが悪い。




