第28話 悪くない
週末の夕方、通知音は無感情に告げた。
『私からお願いしといて、お待たせしてすみません。
詳しくお話ししたいので、直接お会いできますか?
御都合どうです?』
いつまでも生殺しは勘弁してくれとばかり、
「明日は休みですし、これからはどうでしょう?」
『私も珍しく勤務あがりで明日は休みです。御食事されました?食べながらでも。』
「良いですよ。といってもあまり店知らない⋯」
『いつも行かれてるところで大丈夫ですよ。そんな堅苦しく考えなくても。』
「じゃあ、現場近くのあの定食屋で。だったら病院からも近いでしょ?」
『気を使ってもらって⋯でも折角だからそこで。』
この時間、渋滞するから電車で“面談場所”にむかう。
「お待たせしました。」
『いえ、コチラこそ気を使ってもらってすみません。』
「おしゃれな店じゃないですけどね。ココの日替わり小鉢好きなんです。」
『じゃあ、私もそうしようかな?』
「定食ふたつお願いします。」
手慣れた感じで、小鉢を選んでいく。
『栄養バランスとか考えてるんですね。ちょっと意外』
「不健康な事をしたいなら体力はいるでしょ?」
少し自慢げに言う。
『でも、今回は“生兵法は大怪我のもと”でしたね。まあ、かすり傷くらいで済んではいますが。』
「食べながらとは言いましたが、不意打ちですね。」
『メニュー来てからだと、あまり落ち着かないし味も分からないでしょ?』
「それもそうですが、じゃあお手柔らかに⋯」
そうして、検診結果をわかりやすく解説し、何が不足してるのか、どう対処すれば良いのかを丁寧かつ分かりやすく話して貰った。
食べてる途中にも、この食材が良いとかこれは食べ過ぎないようにとか、多分患者さんにもこんな風に指導してるんだろうなと思わせる滑らかさだった。
『やっぱり“付け焼き刃”の知識を信じすぎて、逆に偏ってたんですね。“過ぎたるは及ばざるが如し”です。』
「申し訳ない。なんか、久々に先生に叱られた気分です。」
『“知ってる人”が不健康なのは耐えられないんです』
「知ってる人に入れてくれるんですか?」
『手がかかる“生徒”です』
「と、この話はここまでで、ココお酒メニューも豊富なんですよ、苦手じゃなかったらですがどうですか?」
『あからさまに誤魔化しましたね。でも、嫌いじゃないんで少しだけ。』
そう言ってメニューに目を移した。
意外と通なチョイスにびっくりしながら、ツマミも追加してさっき迄の緊張感も薄れていく。
「ほら、コッチの焼き物も美味いですよ。あっ袖でひっくり返しますよ!」
『お酒入ると、何か印象変わりますね。ちょっとお兄ちゃんみたい。妹とかいませんよね?』
始めは楽しく飲んでいた澪さんは、飲み進むにつれさっきまでのシゴデキな印象から柔らかい表情を見せ始めた。
「兄弟はいませんよ。澪さんこそ、お酒入ると印象変わりますね。」
『そんな、私を酒乱みたいに言わないでください。こう見えても、仲間内では姉御肌で〜』
「澪、あぶねえ。グラス倒れる!」
一瞬、目を見開いてすぐ一層柔らかい少し甘えるような表情で言った。
『お兄ちゃん、ゴメンなさい〜』
その声音は、妙に心地よかった。
——悪くない。
どちらの感想なのか、考えないことにした。




