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第26話 異常なしの外側

それは名ばかりの秋で、熱の抜けきらない午後だった。

山田さんの歩調が、いつもよりわずかに速い。

「山田さん、少しゆっくり」

声をかけながら、前を見る。

歩幅が狭い。

右足の出が、半拍遅れる。

腕の振りが浅い。

笑っている。

顔色も悪くない。

でも、身体が前に進んでいない。

(気のせいなら、いい)

角を曲がれば、彼がいる。

山田さんが勝手に“tetsu”と呼んで、弟子扱いしている人。

『よう、tetsu!』

振り向いたとき、一瞬だけ、焦点が合わない。

『こんにちは。まだ暑さが続きますね。大丈夫ですか?』

「どうも。大丈夫って?」

その返しが、少し遅い。

ーーやっぱり反応が鈍い。

『少しふらついてません?』

「気のせいでは?」

そう言いながら彼の視線は私を見ていない。

「この前の健康診断でも異常なしでしたし。」

『自覚ない?』

「少し前に少し調子悪いかな、と思う日はありましたけど、休むまでじゃなくそれからは問題ないですよ。」

『さすがtetsuじゃ、根性が違うのぅ』

『すみません、山田さん。時代が違うんです。

“サイン”を無視したんですか?』

『限界を超えると、不調を“感じる力”そのものが鈍るんです。だから、不調の“サイン”が出た時点で対処しないと取り返しのつかない事になる。』

「でも、健診では⋯」

『会社などの検診は、基本的に“仕事が可能かの判断材料”で、その人自身の“健康”にウエイトが置かれてないんです。差し支えなければ、結果見せて頂いても?』

「親族いないので、親族分の資料も会社に届きます。何かあったら、連絡あるかと。」

『仕事に支障ある結果以外は、教えてもらえないでしょう。』

『tetsu、大丈夫だよな?』

『データもらえれば、私なりですがアドバイスできると思います。山田さんを安心させると思って』

普段見ない、真剣な目に圧倒されて結果データを見てもらう約束をし、LINE交換をした。

俺は、自分の身体のことを一番わかっているつもりだった。

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