第23話 いってらっしゃいの朝
翌朝、普段とは比べものにならない爽やかな朝を迎えた俺。
縁側で背伸びをして深呼吸する。
視線の端に犬小屋が入る。
「⋯ついでだしな」
庭に降り、犬小屋の入り口に溜まった落ち葉を払う。
首輪が姿を現す。
「よぉ!」
『おはよう、早いね。よく眠れたかい?』
首輪の代わりに返事したのはばあちゃんだった。
「ビックリした。おはよう。やっぱり田舎は空気がいいのか、ぐっすり眠れたよ。」
チラと犬小屋に目をやるばあちゃん。
「ついでだし」
何のついでかわからないが、そう言った。
(掃除の仕方、あんたそっくりだったね)
ばあちゃんは少し嬉しそうな顔をしてこう言った。
『今日はどうするんだい?』
「墓に寄って今日帰るよ。
ホントはもう何日かいたいんだけど、居心地良すぎて根が生えちゃいそうだから。
若い頃と違って、この歳になると仕事までに中一日あけないとキツいってのもあるんだけどね。」
『そういや、あの子もそんな事言ってたね。
出る前に声かけて。持って帰らせたいものがあるから。
』
ばあちゃんは名残り惜しそうにしながらも、家のなかに戻っていった。
バイクだし、墓にも寄るしな⋯。
などと思いながら、帰り支度をする。
「ばあちゃん、もう出るよ。」
『コレ持って帰りな。これくらいなら邪魔にならないだろ?』
そう言って渡されたのは、巾着に入ったタッパー。
「これは?」
『昨日、“あんた”が美味しいって喜んでくれた“けんちょう”だよ。バイクだから鍋ごとってわけにはいかないけど、御近所さんにも。』
「ありがとう、嬉しいよ。」
『じゃあ、気をつけて帰るんだよ。いってらっしゃい!』
「ん、ばあちゃんまたな!」
“いってらっしゃい”と言われるのは何年ぶりかでこそばゆいが心が温かくなる。
そんな気持ちのまま、山あいの墓地に着く。
とりあえず、ばあちゃんが準備してくれたタオルを濡らしてキレイにして、来る途中の商店で買った花を挿しロウソクと線香に火をつける⋯はずだった。
風もないのに、なかなか火がつかない。
二度三度⋯、親父の前で下手打てないと思うと余計焦る。
やっと火がついて、供える。
「みっともないとこ、見せたな。
オヤジ久しぶり。俺はなんとかやるよ。」
返事があるはずもなく、立ち上がりかけてふと動きが止まる。
せっかくだから、オヤジの好物らしい“けんちょう”を供えてやろうと思ったが、入れるものがない。
カバンの中にないかと漁ってたら、巾着から味見皿が転がり出た。
ばあちゃんだ!俺が供えるのを見越して入れてたんだろう。
「ばあちゃんには敵わないな!」と呟く。
“誰の親だと思ってんだ!”オヤジに言われた気がした。
ふと見ると、墓のすぐそばに大きめの石が。
何も彫られてないが“スズ”の墓だとわかる。
そっと手をあわせて“ココでも一緒なんだな、親父を頼むな!”と心の中で言った。
風が吹いて、犬小屋で嗅いだ“匂い”がしたきがした。
数年後、ばあちゃんもこの山あいに眠った。
あの日の“いってらっしゃい”が、最後だった。




