第22話 盆の風
「ホント田舎は神様まで親切だよ。」
まあ、帰ってきた人間には優しくする土地柄なのかもな。
神社での出来事をばあちゃんに話しながらそう言った。
『そういや、あんたのお父さんも何かあったらあそこの神社にお願いに行ってたから、神様も同じ匂いがしたんじゃない?』
「そんな“匂い”ってイヌじゃあるまいし。
それにしてもばあちゃん“けんちょう”美味いよ。やっぱりこの味だよな」
“けんちょう”自体は初めて食べたけど、お世辞じゃなく絶品だ。
多分“おふくろの味”なんだろうから、親父の分まで感想を言っておく。
「御馳走さまでした。」
娯楽のない田舎の夜は早い。
といっても、場所が変わったとて眠くなる時間が変わるわけでもなく、縁側で緑の匂いたっぷりの夜風にあたっていた。
すると、庭の隅っこに古びた犬小屋を見つけた。
凄く寂れてはいるが、その古さの割には小綺麗だ。
雨風に晒されているはずなのに、朽ちていない。
俺は庭に降り、犬小屋に近づいてみる。
そこに家主の姿はなく、首輪がポツンとあるだけ。
屋根に触れてみる。
見た目通り、かなり年季の入った材料だが造りはしっかりしている。
そして、手入れされた跡も見かけられる。
『ココにいたのかい。』
不意に、後ろからばあちゃんの声がした。
『風呂が沸いたから呼びにきたらいなくて、何してたんだい?』
「ばあちゃん、この犬小屋は?」
『あぁ、それかい。スズの小屋だよ』
「スズ?」
『うちで飼ってたイヌだよ。
お前の父親がまるで弟みたいに可愛がってた。
“俺が鉄男だからスズだ!”って名付けたんだ』
そういえば、そんな話聞いた気がする。
……誰から聞いたんだっけな。
というか、最近なにかの時に思い出したような⋯。
『そのスズもあの子が学校卒業する頃には、散歩するのがやっとでね。神社の階段をあの子が抱いて上がってた。』
さっきの神社だ。
『スズが亡くなった時は、自分の父親・お前のおじいちゃんが亡くなった時と同じくらい泣いてたもんさ。スズのお墓は先祖の墓の直ぐ側にあるよ』
「そっか」
『この犬小屋もあの子が“帰って来た時散らかってたら機嫌悪くして吠えられる”って、掃除してた』
『あの子が亡くなってからも、あの子に叱られそうで時々掃除してるんだよ。もうボロボロだけどね。』
名札はもう読めないしアチコチ欠けてるけど、“踏ん張る”ように佇んでる。
俺は何を言うでもなくただ見つめていた。
『さあさ、せっかくの風呂が冷めるから早く入っておいで』
ばあちゃんの言葉と一緒に夜風が少しだけ抜け、そっと立ち上がった。




