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【バアルの零落物語】  作者: 壱千羽
幽鬼揺々参道通行
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【23話】幽鬼揺々参道通行Ⅹ

 


 妖怪、酒呑童子の血を垂らした太刀を瓢はしっかりと握り締める



「貴様から吹き出た血は周りを彩るにも足らない溝みてぇな色をしてるな、哀れ哀れ哀れ、非ッッ常に哀れ也」



 瓢は自らの足元に飛び散っていた酒呑童子の血を荒々しく踏みつけた。



「手前ェの頸動脈を断ち切れた事、嬉しく思うよ僕がずっとしてきたかった事だからな」



 毒々しい微笑みを浮かべ刃の先を酒呑童子に向ける。


 血は止まる事を知らずに噴き出し続ける。酒呑童子の肉体は鋼のように硬かった、だが(うなじ)の皮膚は他に比べると薄く重要な血管や神経がよく通っている。


 狙うのには理想的な一点だった。加えその一撃は舞踊に見間違うほどの美しさを放っていた。


 一撃は完璧だった。それは明らかに酒呑童子にとっての致命傷となっていた。



「最初から瓢、君を立てるために全部やったのだからね」



 悪戯っ子のように微笑む安倍晴明公に瓢は憎たらしそうに返した



「流石に途中から判ってたわ、それで? どうせ平安生まれなのもバレてんだろ」


「流石にねぇと云うか今回の招待客はほぼ全員気がついてたよ。嘘下手すぎじゃない?」


「里の奴らにバレてなきゃいいんだよ、」



 暴論だね、と晴明公は云った。

 そして酒呑童子に目を向ける。


 酒呑童子は項に手を当て流れた血を眺めた。その時の表情と言ったら、まるで豆鉄砲を食らった鳩のような情けない顔。

 これほどの傷を受けるのは予想外だったのだろう。



「その能力……ぬらりひょんか、攻撃性のない弱小妖怪如きに、」


「残念だったなクソ童子(ガキ)一番攻撃性・敵対性なしと最初に排除した僕に一番の深手を負わされるだなんてな、これ題材にして狂歌でも読んでやろうか」


「口に減らない餓鬼だ」


「どっちがだ」



 *



 さてさて此方は雲の上、優雅に神様らしく戦場を眺めております。


 え?私ベルゼブブは戦場に参加しないのかって?


 先程も供述したように私はこういう個人的な争いには入れないんだよ神様は、ん? 其れぐらいのどうにかしろって? 理操作の能力とか有るだろって?


 そこだよ判るかい?


 今回の戦は過去の軛を断ち切るための重要なものだ私が行ってみろ


 悪魔の力の中でも



暴食(ゼリルート)】で速攻頸喰べさせて終わりか


怠惰(アーツァル)】で試合放棄させるかで直ぐ終わっちゃうんだよ!



 程々の能力が無いのだよ本当に、なのでもう眺めてる側に回ろうかと。

 此れでも神様の中では割と戦闘力有る方ですから。竜とか蛇とかだっていっぱい倒したし、


 エジプト神話の方では最強格、ウガリット神話では他の神に一線を敷くほどの力、悪魔の中では多分一番強い(その時実力主上主義だった地獄で一番だったサタンを負かしたため)


 こう見えても意外と強いのだぞ私、

 ……サタンと戦った時はまあまあヤバかったが




 さて、話を戻すとするか



 今回の物語の重点は瓢、酒呑童子、源頼光。加えて少しだけ安倍晴明公


 発端と云えば平安中期まで遡ったあの酒呑童子討伐の話かな。瓢が憎い相手を殺したいという気持ちはひどく理解できる。

 私だって神様の頃には二度、兄とされる神を殺した。何方とも憎らしいことに蘇ったがな。


 だから少しだけ瓢の思惑通り周りの皆を誘導した。


 百鬼夜行には花形となる鬼が必要と言い出したのはそのためだ、途中で晴明公も気が付いたらしく乗ってくれたがな。

 何方にしよあの封印は限界に近かった。封印の張り直しか討伐も視野に入れて此方に訪れたであろうことは私にとっては呼吸をするより簡単に知れる内容だったから。


 軽くこちらに偏ってくれるような口ぶりをすれば良いだけ、思ったことを素直に言っただけだから此れも簡単。


 酒呑童子は私が知っている中でも危険度はかなり低い方だアペプやロタンに比べれば欠伸をしている間にでも殺せるほど私にとっては小物だ。だが六柱達の中で特出した攻撃性を持っているのはルキフゲ・ロフォカレのみ、直ぐに倒されないのも力が増しているのも計算済み。


 呪術師や陰陽師辺は所詮人間の枠を出ない、でも人間にしては強い方だ。

 人間が馬鹿げた力を持ってるときは大方神は作った道具、天使が与えた力だよりだが元々の力でこれなら目を見張るものがある。


 じわじわ弱らせ鬼や神を従えた事のあるあの二人なら酒呑童子を従えさせるだなんて簡単だろう。


 利用するだけさせてその後は好きにさしたらいい。



 基本的に神は放任主義だから。



「あ、今は悪魔で魔王か」



 ポツリとつぶやいた言葉は誰にも聞き入られることもなく消えていく。



「まあ、八方丸く収まってくれるでしょう」



 *



 瓢の一撃でたじろいだ酒呑童子の隙を見過ごすほど他の連中は甘くない。



「かかれ前鬼、後鬼」



 役氏が鬼に指示を出した。前鬼は斧、後鬼は刀を構え先程瓢が傷を負わせてみせた項に向かい駆け出す。


 だが傷を負って動揺してようが日本を代表する大妖怪。突撃してくる前鬼と後鬼に臨戦態勢を整えた。棍棒を振り被らぶらんとしようとする酒呑童子。


 その様子を確認し役氏は酒呑童子を正面にとらえ語った。



「酒呑童子、貴様の弱点はそのでかすぎる図体と単調な思考じゃ。悔い改めるにしても遅過ぎる、地獄によって悔いよ」


「一体何の、」



 酒呑童子に突如とての奇襲。

 項に走る衝撃、激痛は衝撃として受け取られ痛みよりも早く酒呑童子の体を襲った。


 反射で振り返った酒呑童子の目に映ったのは―――



「やったー!漸く当たった当たったわアガリ!」


「矢っ張り傷口をネチネチ攻めるのが一番、タルキマチェもどうも」


「いえいえやっとできた活躍の場面を逃すほど私も甘くありませんから」



 サタナキアが操る女型の精霊達。下級精霊ならば自我も無く只己が象徴とする者の周りを漂う。そう云う者であればサタナキアの得意分野だ。


 サタナキアを抱えたアガリアレプトとタルキマチェは会話する。



「今回本当私見どころが有りませんでしたから逆にありがたかったですよ」


「いやいやこっちも攻撃手段零だからこういう戦場では活躍出来ないんだわ」



 酒呑童子の背丈は下級の精霊が跳躍して勢いを持って攻撃できる程ではない。タルキマチェの能力の中には或る程度の物の浮遊があり其れにより精霊たちを浮遊、攻撃させた。



「元々精霊達は普段他の生物に見つからないようにひっそりと生活してるの、だから復活して右も左も理解が追い付かない様な赤子に察知されるわけない、出来る訳無いんだよ」



 サタナキアが云った通りだ。


 復活したばかりで世の常識も浸透していない妖怪に普段から居るのかもわからない下級精霊が察知できる筈が無い。

 先程迄は酒呑童子に真っ向から挑んでその鋼の肉体に敗れたが今回は既に鋼の肉体という特性(アドバンテージ)は傷口には作用しない。攻撃が効く。



「じゃあ次は私かな、」



 晴明公が自分の懐から呪符を取り出した。五芒星が描かれた其の呪符に念を込める。



「【急急如律令】出でよ天空(てんくう)



 其れは北西を守護する十二天将の内の一つ。目に見えないものを司る。

 そして奴もまた、目に捉えることは出来ない。


 天空は確かに召喚された、だが目には捉えられない。奴の象徴するものは嘘や情報だ。



「天空、奴の情報を撹乱しろ」



 目に捉えることはできないが捉えることが出来るものも居る。天空と同じ神だ。

 ベルゼブブには視認出来ている、そいつの姿が。



 *



「相変わらず、身体なんて言っていいのかわからない見た目だな」



 頬杖を付きバアルは呟いた。



 *



 致命傷に成りかねない頸動脈を切られ追随する攻撃。

 情報が撹乱され右も左、上下さえも分からない状態。


 酒呑童子は居ても立っても居られないだろう。


 生きることに罪なんかない。此れまでの生きる上で行ってきた行動が罪なのだ。

 そもそも此の世に罪なんかなかった。あったには楽園、死も罪もない楽園。


 それを無くしたのはひとえにあの蛇、赤い竜の仕業。


 世に罪を広め悪行という価値観を作り上げた赤い竜が全ての諸悪の根源と言ってしまえばそうとなる。



 今回はその罪の中の一つが消える。



「もう酒呑童子は弱体しきってる、使役化してください」



 童子切についた血を勢いで振り落とし瓢は云った。


 その言葉には鬼を従わせる役目がある役氏と晴明公は驚いた顔を浮かべた外の顔色を確認した。そしてもう一度瓢を見、又顔を見合わせた



「そんなに僕の言ったことが信じられないか…」


「いやぁ、だって瓢殿は道満並みに捻くれた性格だって思ってたし」


「其れは自負してるから云うな直そうとしてんですよこっちも」


「右に同じく」


「役小角殿も喋らなくていいですから、」



 一気にどっと疲れた。瓢はため息をついた。


 今更同類殺しに躊躇っている訳ではない。只きちんと千年前の平安中期、そして先ほど述べたことを達成してから殺す。



「只、コイツは僕がこき使えるだけこき使って利用できるだけ利用してから、その時本当に殺す。それだけですよ」



「なるほど性格の悪さは直っていないようだな」


「御前も大概五月蝿えな安倍晴明公」



 揶揄っているように見えるものの言っていることの大方は晴明公の本心である。



 役氏と晴明公が顔を合わせ立ち尽くした酒呑童子の前に構える。



「「【【急急如律令】】」」




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