【21話】幽鬼揺々参道通行Ⅷ
「………普段こう云うの僕附いて来ないよな」
「まあそうだねぇ」
「何で今回に限って附いて来いっつったんだ?」
「妖怪の事は妖怪である瓢に任せるのが最適だと思ってね、」
諦めろ瓢と四天王達の方向から声が聞こえる。
頼光と瓢を前に後ろを四天王。此の陣形で白い血痕の跡を追っていた。途中から血止めでもしたのか血痕が途切れていたが妖力の跡を辿り塒へと向かっていた。
三人が横並びに成って丁度の広さの山の小道、人里から離れた山道の様な道を歩いて居た。
ぬらりひょんは戦闘力が無い代わりに探索系や察知系に能力が優れていたからか瓢は普通の妖怪では感じ取れない程の微弱な妖力を感じ取って見せた。
「矢張り瓢を連れてきて正解だったな…」
「渡辺御前なァ……」
此奴は性根が真面目だから冗談を云わないのは判り切っている。
だからこそ頭を抱え瓢は溜息をついた。
切り替えが大事だ。
心を持ち直し妖力の足跡辿りに集中する。
判った、あそこだ
「……此の一本道を進んだ後にある建物の中…其処に土蜘蛛が居る」
「本当だね?」
「間違いねぇ。流石に此れ位は僕でも判る。にしても其れ以上に…」
言い淀む瓢の先の言葉は全員理解していた。
目の前に広がる古びた広い屋敷。屋根には所々穴が空き柱には虫喰いの後、人が住まなくなって数十年といった所であろうか。
「死の匂いがこっち迄よく漂ってきやがる」
僕じゃなくても感じ取っているであろう死臭。十や百の数で収められる数ではない千はいっているのではないか。その予想は的中する事と成った。
「瓢、土蜘蛛について知っているかい」
「莫迦を言うな、そもそも妖怪は日本各地に散っていて僕達妖怪同士でも伝承だよりの存在認識なんだよ」
「意外と淡白なのだね」
五月蝿えと言葉を切り上げ皆重々しい空気で屋敷へと足を向けた。
*
屋敷に近付き偵察係として僕が押し出された。
同じ妖怪で警戒されないし物理攻撃無効持ちに本当に危ない時は瞬間移動で逃げれば良いからと、確かにその通りだし合理的だ。
(うわ………異形の妖怪が死ぬほどいる、この多さは彼奴等でも捌き切れるか怪しいな)
古びた屋敷に見廻るように設置された異形の形をした妖怪。ぬらりひょんである僕は元が殆ど人間の形をしている為人間社会にも溶け込めるが妖怪の大方は異形が多いのだ。
屋敷の広さは二十丈位か…?有り得ないほどの広さだ。
(取り敢えず僕がするのは偵察だけ、もう十分な情報を持ってるし文殊らも此れで満足するだろ)
木々の間から観察していた瓢は身を引かせ木陰に身を置く。
(にしても数が異常だな、こんな集まるか普通?)
目を細め周りを徘徊している妖怪たちを良く観察する。
普通の妖怪に見えるが、違和感があるとするのならば動き方が少々不自然だ。重心の存在を疑いたくなるような不自然な歩行だ。
真逆と思い妖怪達の腕や足を観察する。
(やっぱり………!)
自身の考えが的中したと理解した。
瞬間瓢の胸に一筋の針金の様なものが亜音速で刺さる。
瓢は衝撃で固まる。
目を見開き自身の胸に刺さっているそれを見る。
相当勢い良く飛んできたからなのか瓢の後ろに生えていた木にも刺さりそこで漸く停止した。刺さったものは集束した糸の様に瓢は見えた。
瓢は視線を動かす。糸の先を辿って。それは例の屋敷から生えていた。
「成る程…糸を操って攻撃、加え妖怪をその糸で操って見せる…病をバラ撒くのが土蜘蛛の本領だと思っていたが、予想外だな」
糸は土蜘蛛による攻撃手段の一つだったわけだ。
胸を貫通する糸にもう冷静な目で見られるようになった。
「攻撃範囲が此処まで広いとは意外だ、良い情報を手に入れられたありがとなクソ蜘蛛野郎が」
言葉に反応するかの如く瓢の身体の胸部が煙のように渦巻いた。
「だが残念僕に物理攻撃は効かないんでね」
悪く思うなよ土蜘蛛、瓢はそう言い其の場からぬらりと消えた。
*
「……というわけで僕が命からがらに得た情報は此れで以上」
「明らかに余裕そうだったじゃん瓢」
「文殊は黙っとけ」
土蜘蛛の糸の攻撃の射程範囲外の森の一部で話し合う大の大人四人と妖怪一匹。
「此れは、思った以上に強敵のようですね」
卜部が悩ましげな表情を浮かべ零した。
確かに瓢自身も病をばら撒くだけの迷惑大蜘蛛かと思っていたがあそこまでの緻密さと威力を兼ね備えた攻撃は予想範囲外だ。
「にしても瓢を偵察に出して正解だった、其れくらいの威力なら此の程度の装備なら一刺しだろうな」
碓井が近くに居た坂田に語りかけた。
「だな、しかも心臓を狙った一突き。精確さも目を見張る部分がある」
言葉を返し皆それぞれ思案する。
瓢は考える。武将や武士は尊厳が高く傷付けられたと感じれば恥とし反逆の手を緩めることは消してない。
故に皆は撤退の案ではなくどうしたら土蜘蛛の首を取れるかを考えている。
そんな中瓢は一人木の幹に体重をかけその場を眺める
「何してるのさ瓢一人だけ木に凭れ掛かって黄昏れて、そういうお年頃なのはわかるけどさ」
「急に後ろから来んなやキモい」
「ナチュラルキモいが一番キツイんだよ瓢気付いて」
「黙れや文殊。で、何のようだ」
後ろから音も無く忍び寄り語りかけてきた不審者に僕は懇切丁寧に対応をしてやる。僕はなんと優しいんだろうか。
「………」
「んだよ、要件あるなら早く云えや」
「………瓢、別に殺さなくてもいい」
素っ頓狂な声だそんな声が自分から出たと思うと余計に驚きが隠せない。
瓢の様子に頼光はニマニマと笑う。
「妖怪退治した事の在る俺達だけど瓢は同種だろ?同種を殺すことに躊躇いが在るのは普通の事だ。生物の大方は同種殺しをする、それを罪と認定するのは他種族ともこうして会話等から完璧な意思疎通が出来る種のみ」
「そこ迄は分かる」
「そしてその種には大きく分けて三つの型がある。一つは同種殺しをしない奴、一つは躊躇いなくする奴…瓢、もう一つはなんだと思う?」
いつの間にか隣に来、弓の点検をしつつ其奴は聞いてきた。
其奴がする話の中では割と真面目な類だったので今回ぐらいは真剣に考えてやることにした。
(尚普段は下世話な話や部下にある色恋の話をしてくる。そして偶に真面目な仕事の話や訓練の話などをしてきた)
一つは同種殺しをしない奴。
それを一番手に持ってきたのは僕が、例え文殊を病によって苦しめた犯人であっても同じ妖怪として殺すのに躊躇しているのを察知したからなのか。
一つは躊躇いなくする奴
此処までは不審な所は無い。だがこういう場合においては強引にでも不審な点を見つけ出し潰す。
不審な点があるとするのならば二つ目のところだ。 態々"躊躇いなく"をつける意味はない。殺すやつと供述すれば済むからだ。
(詰まり………)
導き出した答えは確かにと異種族である瓢にも納得できるものだった。
「さて、答えは如何かな?」
「そうだな、答えは―――――」
*
戦は日没迄に及んだ。
日が沈む頃には美女の誘惑等に苦しめられたがそんな苦難も跳ね除け無事に文殊が首を落とす形で勝利を収めた。
その首は河川で鉄串にさせた。
土蜘蛛の腹の中からは計千百九十個の死体の首と二十の小さな髑髏が見つかった。
恐らく此れまでに此の土蜘蛛が食ってきた人間の数に比例しているのだろう。妖怪の中には人間を食う奴もいる。僕は人肉や血を欲している訳ではない、でも其れが主食の奴もいる。
きっと人間食も食えない筈ではない。何時そちらの方をはやらそうかとも思った。
戦いで僕がしたことといえば援護が主だった。
妖怪達に絡みついている糸の切断や他の皆が危ない時の殺さない程度の援助、場の状況を把握し指示を出すなど。
僕に出来ることは精一杯した。其れには満足している。
こうして土蜘蛛が幕開いた物語は終わった
次は酒呑童子の物語が幕を開こうとしていた
その物語はすでに幕引きされている
物語の幕引き、結末なんかありきたりなもので
酒呑童子の物語の幕引きは
源頼光の死だった




