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【バアルの零落物語】  作者: 壱千羽
幽鬼揺々参道通行
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【14話】幽鬼揺々参道通行Ⅰ



 【幽鬼揺々参道通行】

ゆうきゆらゆらさんどうとうゆ

  と読みます



 


 妖怪―――それは古来より恐れられて来た云わば日本版悪魔。古来では妖怪は実際に居た者だと心の底から信じられており妖怪にまつわる現代で云う新聞に記されていた程であった。


 そんな妖怪は今



 絶望の淵に立たされている



 *



 全体の(あらまし)を聞き終え頷いた。


 黒みがかってくすんだ赤の髪に燃え尽きた炭の様に黒い瞳。端正な顔立ちで物腰柔らかな青年と云った容貌。体中から無害ですよと云わんばかりの雰囲気(オーラ)が放たれている。

 金色の腕章を身に着け青の長い胴着(ロングベスト)。相手方の文化に合わす様正座をしているが居心地が悪いのかそわそわとしている。


 斜め後ろにいる両者二名は直属の部下。


 片方に居るのは中将・フルーレティ

 黒髪で髪の上部を短くし、襟足を長めに残した髪型(ヘヤースタイル)。黒い目に片眼鏡。黒色の西洋の正装。


 片方に居るのは副官・タルキマチェ

 一部編み込まれた青の髪に紫の瞳。燕尾服(テールコート)を着こなし顔には微笑みを浮かばせ朗らかな雰囲気を放っている。



 場は和風の屋内。少し首を左にすれば緑が見え鹿威しの音が響く。

 世界を包む暗がりを庭に設置されていた灯篭(とうろう)が薙ぎ払っていた。


 畳の発する独特の匂いは慣れず靴を脱いで家に上がる文化は慣れず正座をする文化は慣れない海外民勢の悪魔三人衆は少しばかりの異文化衝撃(カルチャーショック)を受けていた。


 悪魔達の目の前に座るのは今回の仕事の相手。その棟梁である。



「遠い所から遥々御越し頂き誠に感謝申し上げます。」



 目の前にいる青年と見間違う程幼く見える。

 黒の少し長い髪は先が括られ赤い垂れ目に着物を纏った好青年。長い爪が赤く塗られている。



「失礼、名を申しておりませんでしたね。ぬらりひょんの(ふくべ)と申す者です。何卒此度の事態皆様方のお手を借りたいと熱く祈願しております。如何か宜しくお願い致します。」

【妖怪の総大将】瓢

 能力:瞬間移動、物理攻撃無効、己の浮き沈み



「御丁寧に。私は地獄の三大支配者・魔王のベルゼブブと云う者です。後ろの者達は私の直属の部下、好きなように使ってくれて構いません」

【七つの大罪暴食・怠惰担当・魔王・地獄の東方勢力の支配者・最高神・嵐と慈雨を司る豊穣神・砂漠と戦争を司る神、ヘリオリポリス九柱神】ベルゼブブ、ベルフェゴール、バエル、バアル、セト

 能力:暴食を司る、虫を操る、疫病の蔓延、怠惰を司る、人を不可視にする、知恵の教授、姿の変化、嵐と慈雨を司る、砂嵐と戦争を司る、世界改変、【次元渡航】、己の蘇生



 フルーレティ、タルキマチェが一礼し意を示す。



「何と魔王様が直々にと、心強い限りです。」



 瓢の声にベルゼブブは只々苦笑いを浮かべる。

 ベルゼブブの内心は、本来来る予定じゃなかったんだけどなーと申し訳の無い言葉で埋め尽くされていた。



「では早々に本題に行ってしまいましょう。我々妖怪は悪魔の皆さんと同じく人間の信じる心、言霊によって成り立っているに等しいです。然し現代の文明社会にとっては妖怪なぞ御伽話に等しく成ってきています。此れは我々妖怪の生命に関わる問題です故に【妖魔友好相互援助条約】に則り助けを乞うた訳です。」


「其れの解決案が五十年近くぶりに行う【百鬼夜行】と。五十年も在れば人間共の意識も変わる…成る程。我々は其の手伝いをすれば良いのですね」


「はい。出来る限りの助力を願いたく存じます。では一先ず参加する皆々の顔合わせからですかね、御案内致します」



 ぬらりひょん・瓢が立ち上がる。其れに追づいして悪魔達も立ち上がった。



「どうぞ、此方です」



 *



 森とは神秘の源であり生命の源でもある。


 周りを囲む木々達と地面に敷かれた恐らく葉。人里離れている所だとは聞いていたが科学文明である人間界にまだこんな土地が残っているとは思わなかった。



「後少しで着きますよ。妖怪の里です、村長的な立ち位置が僕。役人の様な立場には百々目鬼等の鬼妖怪が鎮座して居ます。使いたいのが居れば僕を通して云ってください僕からの命は里の妖怪達は断れないので」


「へー其の歳で凄いですね…結構若い御見受けしますが…幾つです?」



 ベルゼブブが問うた。

 雰囲気、感じる所作から若々しい者を感じた為の問いだ。


 先頭を歩く瓢は幾分か悩む素振りを見せ呟いた。



「七百十…位ですかね…妖怪全盛期の平安の世は経験できていない若造ですが…」



 申し訳なさそうに微笑む瓢に海外悪魔勢は異文化衝撃(カルチャーショック)だけではなく世代格差(ジェネレーション)衝撃(ギャップ)に苦しむ事と成る。



「へー……七百……十…そう、ですか…」←フルーレティ(よわい)・最低三千、四千越え


「、………」←タルキマチェ齢・最低三千、四千越え



(私より全然若いなぁ…でも……まあ、ね、お年頃って奴かな)←ベルゼブブ、バアル齢・地上が出来た頃から生きている



 悪魔達の内奥を知る由も無い瓢はにこやかで語り続けた。

 鼻の前を奏でる草木の匂いだけが内心を癒してくれた。



「さて、もうそろそろです。」



 永遠に続くかと思われた緑の緞帳(どんちょう)が上がった。目の前に広がる景色はまるで皆には目新しいもの。


 江戸の儘から変わっていないと話の聞いた家屋。畑を耕す泥田坊、闇に包まれた世界を終わらす様輝く化け提灯。何処からか賑やかな騒ぎ声が聞こえてくる。

 地獄とは又違った景色。



「素晴らしい景色でしょう。」


「ええ…レティ達の住む、地獄では絶対に視られない光景ですね。闇夜に浮かぶ光。昼と云うのが有るから輝く景色ですね。」



 地獄には昼夜という概念はない。だからこそ地獄生れ地獄育ちのフルーレティとタルキマチェにはとても新鮮に感じる風景であった。


 瓢の案内の元何やら里の中でも騒がしさを感じる中心地へと進んでいる様だった。



「僕が個人的にも呼んでおいた人が居ます。妖怪等にもとっても詳しい人ですよ」


「人……人間なのですか?」



 疑問を投げかけたフルーレティにも瓢は真摯に応えて見せた。



「まあ、人間の(たが)を外した人間ですね。我々共々非常に縁深い」


「成る程…」



 騒がしさの中心地。主に九州に目撃情報が挙げられる不知火という妖怪。

 その煌めく炎の妖怪を中心に話の輪は広がり結果として心地の良い騒がしさを生み出していた。


 伝承や絵で姿を確認した事のある妖怪ばかりが集い基本的に人型では無い者ばかりの為人型をしているのは何かと目立つ。

 不知火の前に座する人影。


 老若男女が好みであろう紳士的な顔つき。男にしては高い声に全てが抜け落ちたかのように色が無い白髪に日本人らしきかな黒の瞳。平安貴族が着る様な服装は周りに浮く事が無く元々体の一部かの様に不思議と馴染んでいる。



「真逆、真逆だよ。何時ぞや敵対していた妖怪に囲まれ夜を明かす事に成るとは、世の中何が起こるか判ったもんじゃありません事を実感させられましたねぇ」

【陰陽師】安倍晴明

 能力:陰陽道、十二天将を従える



 男に応えるのは隣に居た人影であった。

 顔つきに似使わない古臭い喋り方で話し始めた。



「其れもそうじゃろう、儂だって後世に名が一番残るのは安倍晴明公じゃと思わんに。確かに其の時代では一に腕が立っておったが鬼を従えた儂は民草の耳にすら入らぬ事態。悲しい事この上ないのじゃよ」

【呪術師】(えんの)小角(おづぬ)

 能力:呪術、鬼神の使役



 薄い紫の髪に白の瞳は鈍く光る。青年と間違う程の若々しい顔つきに色の抑えた山伏の服を身に纏った青年、役小角は続けた。



「其れよりも晴明公、蘆屋殿にも声が掛かっておったじゃろ?遅れておるのか?」


「いいや? 云ってもいいけどね、君達なら分かるんじゃない?」



 晴明公は体を乗り出し対面の相手へ語り掛けた。興味深そうに笑う顔が炎の中揺らめく。


 晴明公の正面に居る二名の人型の生命。



「あら誰にものを云っているのかしら、私のアガリに分からない事が有る訳無いじゃないね?アガリー!」

【大将】サタナキア

 能力:凡百(あらゆる)女性を意の儘に操る



 子供よりの顔に黒髪のお下げ。青色の丸い眼には白の縦長い瞳孔が肉食獣の様に相手を捉えている。右耳に大量の耳飾り(ピアス)を付け服は黒と桃色が主な所謂ゴシックアンドロリータ、黒の長靴(ブーツ)を着用した足をぷらぷらと宙へと羽搏(はばた)かせている。


 そしてサタナキアが腕を絡めている男が口を開けた



「無論だな。」

【将軍・司令官】アガリアレプト

 能力:凡百謎や機密事項の解明



 色の薄い緑の髪に閉じられた瞳。眼の下に雫の様な模様が描かれ左耳には大量に耳飾り(ピアス)。黒の二重廻し(インバネスコート)を着用した男の姿。


 言葉には芯が有り自分の力に絶対的な力を持っている者のみ発声する声だ



「自信満々だね。では聞かせてくれ、そして見せてくれ悪魔の力という奴を」


「御望みなら見せてやるよ俺の(パフォーマンス)。余す事無く視とけよ」


「流石私のアガリ!!頑張ってー!!」


「儂も西洋の魔物の力は見た事が無いの、此の歳に成って視れる事に成るとはな」




 その光景に深呼吸をし何度も確かめる。そしてベルゼブブは遂に云った。



「明らかに知ってる顔居るんだけど!!?」



 其の声で皆は此方を振り向いた。

 そして無言。



「後は瓢?」


「ああ、はいなんでしょうベルゼブブ殿」


「何で妖怪とか祓う側の人間がいる訳!?」



 安倍晴明は陰陽師、役小角は呪術師。どう見ても妖怪と仲間仲良しと云うよりかは祓い去る側の人間達である。

 ベルゼブブが問い掛ければあっけらかんとした様子で返された。



「貴方達悪魔だって召喚士(サモナー)と仲良くする事あるでしょう…?」


「其れと此れとは勝手が違うでしょ?!貴方達は殺される側、私達利用される側!こんなにも違いますよ?!其れとアガリアレプト!サタナキア!何で此処に!?」



 声を掛けて漸く気が付いたのか此方に二人は顔を向けた。

 そして此方も此方であっけらかんとした様子で返答した。



「俺達はサタン様からの命令で来ただけっす」


「サタン様が流石に可哀そうだから助けてやれだってさー!良かったねーベルゼブブ様!」



 サタナキアの言葉にベルゼブブは全然良くないんだけどね、と呟いた。



「ルキフゲ・ロフォカレ…まあルキフグスも誘ったんすけど彼奴究極の出不精に加え人間不信っすから一向に首を縦に振らなくて」


「其れはそうでしょうね……」



 タルキマチェが想起した。

 究極の出不精であり人間不信の宰相ルキフゲ・ロフォカレ。光を避け人間を避け続ける事数百年。今では立派な引き籠りと成っている。一応地獄の中でも三大支配者を除けば頂点(トップ)に君臨する程には偉いのだが。



「もう夜も更けてきています。宿を取ってありますので是非そこで御休息を、」



 瓢の声。皆の意識は一気に瓢へと集中した。

 にこやかな笑顔が場を和ませた。



「【百鬼夜行】の準備は翌日から、其の時には皆様如何かお手を、」



 一礼し瓢は宿屋へと案内した。






~小噺の小噺~



安倍晴明公は一人縁側で空を眺める。


全てが抜け落ちた白い髪は微風に靡き黒の瞳は自身の屋敷の園庭を眺めていた。横には障子。

聞こえ其処に在るのは微風に草木の靡き、そして只一人腰掛ける死んだ筈の陰陽師。


「恋しくば たずね来てみよ、和泉なる……信太の森の、うらみ葛の葉」


此れと同じ事が書かれた障子が屋敷の奥の奥。劣化しない様に術を掛け保管されている。


自然物しかなかった其の場に異なる者が加えられた。屋敷内で足音がする。

晴明公が詠んだ和歌に呼ばれて来たのかは判らない。

だが確実に其の者は晴明公へと引き付けられたものの一人である。


「おい!安部勝負しろ!」

【陰陽師】蘆屋道満

能力:陰陽道


「おやおや此れは道満。数十年ぶりの元気な挨拶承ったよ、私も暇してた所だし何する?」


縁側に腰かける晴明公にズカズカと近付き晴明公を見下ろした。

黒い髪に吊り上がった緑の瞳。晴明公の着る平安貴族が着る様な服は何時も晴明公と対になる様にか暗い色をしている。


「ふっ、俺が考えてきた作戦にはさすがのお前も――」


「あ、そう云えば遣る事あるんだった」


「ッておい人の話聞けよ!……は?年中暇で日向ぼっこ位しかする事が無いお前が遣る事だァ?夢の延長戦じゃねえんだぞ今は」


「道満は酷いねぇ君にも話が来ていた筈だよ。ぬらりひょん瓢からね」


晴明公がそう云えばという風に話を広げた。だが道満は明らかに厭そうな表情を浮かべた。

其の表情は晴明公が生きてきた中で何万回とて見た表情だ。

慣れ親しんだ表情に晴明公は最早微笑みを浮かべた。


「ッチやっぱり手前の所にも来てたか、んで何だその気色悪ィ面は!」


「あ、無意識に笑ってたっぽい?御免御免」


「ムカつく顔しやがって興醒めだ、やっぱ御前が居るんなら行くの止めるわ。」


「……そう?別に私行かないでとか云ってないんだけど、え?行くの止めるの…?」


「御前が居るのならな」


道満が晴明公に背を見せる。

晴明公は焦っていた。道満は晴明公に揶揄われたと思って居る。


だが其れは微妙に違う。


晴明公は何時も無意識に相手を揶揄ってしまう様な口ぶりに成ってしまう。

いやあの、別に揶揄ったつもりじゃ、云おうと思うにも己の気高さが邪魔し言葉に出来ない


「じゃ、」


障子がぴしゃりと無残で残酷な音を立てた。

私の所為で道満が来れなくなった。瓢は恐らく道満の手も必要としていたのだろう。


「………やっちゃった」


虚しく響く晴明公の声に反応する者は誰も居なかった。



~小噺の小噺【終】~


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