【13話】幕間・ベルゼブブさんは好きな物には五月蠅い
本作の主人公ベルゼブブ基バアルには様々な顔が有る。
一つは豊穣神であり神々、地上の王であるバアル
一つは地獄の三大支配者であり魔王、七つの大罪暴食担当であるベルゼブブ
一つは七つの大罪の怠惰担当であるベルフェゴール
一つは地獄の東方勢力の支配者、ソロモン72柱序列一位であるバエル
そしてもう一つ。もう一つ神としての姿
一つはヘリオリポリス九柱神の内の一人であるセト
セトに関する逸話、伝説は多くあり其の中の一つに在るのが今回焦点があてられるのは―――
セトの好物はレタスだと云う話だ
*
ベルゼブブ配下の一人。フルーレティが館内を歩いて居た。
毛足の長い赤い絨毯上を歩き館内を点検して回る。館内の点検や管理はフルーレティの仕事である。
故に時々こうして点検して回っているのだ。
(次に当たるのは……調理室ですね、そう云えば料理長が朝から何やら慌ただしい様子でしたね)
手を口に当て思い出す。
調理室に常に居座っている料理長は何時もベルゼブブ様が口にする食品を作っている。故に気がかりであった。何か調理器具に不調を催したのか、其れとも食材に不備が、と考えれば考える程色々な可能性が出てくる。
(そろそろ調理室……話ぐらいでも聞きましょうか)
先程よりも足を速く進め調理室に急ぐ。
館内の調理室は此の館の端の端に設置されている。客人の眼に付く所やベルゼブブ様の眼に付く所には調理室は置けない。
見えて来た。
正面に広がる銀色の扉は闖入者を入らせまいとするようにきつく締められている。ベルゼブブ様はあれでも地獄の三大支配者にて魔王、外部の刺客等を警戒しての措置であった。食事に毒等混ぜられれば―――毒見役も付いているが万が一という事も在るし実際毒を盛ろうと入ろうとした闖入者が過去に居た。
だが料理長は元天使の現堕天使で在り腕が立つ。
だからこそそんな料理長が慌ただしい様子に成るという事態には首を傾げたくなる。
扉を数回敲し扉向こうの料理長に声を掛けた。
「料理長、中将フルーレティです。館内点検ですので開けて頂ければ――おや、開いている?」
数回敲き気が付いたが扉が開いている。留守にしているとしても扉の施錠を忘れる程料理長は阿呆ではない。では何故か。
由々しき事態に陥っている可能性も脳内に入れフルーレティは意を決し扉を開けた。
「料理長。ニスロクさん?開けますよ、」
扉を開け目に飛び込んだ景色。
「って、死んでるッッッ!!!??」
意気消沈したように其の場に倒れ込み頭を抱える料理長ニスロクを発見したフルーレティは急いで寄る。
調理室の真ん中に倒れ込んでいたニスロクを抱え呼び掛けた。
口から泡を噴出させ気絶しているニスロクの顔に生気は無かった。
「ニスロクさん!?レティです!如何か為されましたか!?」
若しや敵の襲撃か?ならば危険で狙われる可能性が最も高いのはベルゼブブ様、
「………殺される…」
【ベルゼブブの配下・料理長】ニスロク
能力:味覚操作、探し物の探知、火を吐く、危機察知、食物輸送
フルーレティに抱えられたニスロクはやっとの事で言葉を吐き目を開けた。
右目は白く左目はベルゼブブと同じように焼け焦げたように黒い。細長い瞳孔が揺らめき続けている。短な金髪に黒の厨房服と白の手袋。左右非対称の黒焦げたような色の翼を背負っている女性の悪魔。
女性に云っては良いのかは判らないが料理人だからなのか何処か焦げ臭さを感じる。
其れよりも先程ニスロクが吐いた言葉は聞き捨てならなかった
「殺される? 誰にだ、答えろニスロク」
「……………ベルゼブブ様」
「は?」
*
「成る程………そういう事でしたか、」
「ええ………もう私如何したら善いのか……絶対殺されますベルゼブブ様に!」
地面に伏し嘆きの声を上げるニスロクにフルーレティは苦笑いを浮かべるしかなかった。
此の地獄には暗黙の原則がある。
其の一つ、ベルゼブブは怒らすな。
そう云うものが在る。ベルゼブブの名を悪意ある風に呼ぶのは又違う。
現在の悪魔体制を築いたベルゼブブに嫌われれば此の地獄を生きる事すら儘為らない。故のニスロクの絶望なのだ。
「うわああああーーーーー!!」
床に悶え大声を上げ暴れまわるニスロクを憐れな目で見るフルーレティ。
ニスロクがこれほどまでに絶望する理由、
「食卓にベルゼブブ様の大好物が並ばない日は無いのに、其れさえなければ安泰だと思ってたのに!!」
ベルゼブブ様の大好物であるレタスが食卓に出せなくなったのだ。
「落ち着いてくださいニスロクさん順序だてて話を整理しましょう。そうすれば解決の糸口も掴めるかもしれません。レティも居ますし」
微笑み掛ければ安心したのかニスロクは安心したのか語り掛けた。
話を要約すれば人間界の現代化によってレタスを盗み出すのも難しくなってきている。(レタスが窃盗品だという事はレティ初めて知りました)
少しばかりか派手にやれば盗む事も出来るが其処には妖怪との条約がある。余り悪魔は人間界で目立ってはいけないのだ今の時代。故に遂に貯蔵していたレタスが底を尽きたのだという。
だから今こうして死を覚悟している最中だとか。
参った此れは参った。
ベルゼブブ様は好きな物や事になると兎に角五月蠅い。鮮度や味、何処で取れているのかすらも拘りを持っている。
そんなレタス大好きベルゼブブ様に事態を知られれば―――
レティですら考えたくありません。先日の悪魔の棟梁のやらかし位には怒らないでしょうが其れと同等位の……
「其れより貴方の能力の一つに在ったでしょう?」
「え?」
【ベルゼブブの配下・料理長】ニスロク
能力:味覚操作、探し物の探知、火を吐く、危機察知、食物輸送
↓―――――――――――――――――↑
「其れです!!この部分に【食物輸送】って書いてあるでしょう、其れ遣って何とかならないんですか」
「ああ此れ私の特技が食品泥棒で成功率も高いからエデンの園からも何度も成功していますし…」
「幾ら自己申請と云えどそんな者申請するんじゃありません!」
堕天使とか一回零落した人は性格かなり屈折している傾向が或るが、ニスロクは例外だと思ったのだが例外では無かったのか、
「取り合えずベルゼブブ様に報告せねばなりませんね」
「それじゃあ私殺されちゃいますって!食料調達私なんですよ!」
「じゃあ……まあ、取り合えず頑張ってきてください…レティは応援していますよ」
「無責任!!!」
よし、取り敢えず面倒くさいし彼奴に任せよ。
調理室の隅に設置された連絡用の電話機に耳を当てダイヤルを回す。嘆くニスロクには気付けないふりをして。
『ッッチ、はいもしもしタルキマチェですが? 要件さっさと云えそして死ね』
「ああタルキマチェ相変わらず態度悪いですねそして貴方が死んで下さい。」
「とても言葉遣いが悪い……其れに電話かけたのベルゼブブ様じゃない…? ん?」
零したニスロクの声を聴かないふりをして続けた。
此の事態。フルーレティにとっては扱いやすいタルキマチェを当てる事で己に当たる火花を少しでも避けようとしている。
タルキマチェはベルゼブブを尊敬している。
其れはもうベルゼブブの事になると頭の螺子が数十本単位で勢い良く外れる程に。
「タルキマチェ貴方、ベルゼブブ様と一緒に居たいでしょう?!」
『勢いが凄いな…当たり前だろ出張だって本当は行きたくないんだぞ。ベルゼブブ様が行ってくれる者は居ないかと問い掛けたからベルゼブブ様の役に立つ為行きたくないのに行っているんだぞ。本当はベルゼブブ様の元から一秒だって離れたくない』
「はいはい知ってる知ってる。其処でだタルキマチェ」
『あ?』
「お前に少し頼みたい事がな――――」
「とても悪い顔をしていらっしゃる……」
ニスロクは不安そうな顔色を浮かべ二人の会話を眺めていた。
*
彼奴、あの野郎――――!
確かに云った云いましたよ?私はベルゼブブ様と出来るだけ共に居たいと。でも此れがこうなりますかね普通。
目の前には絶望した表情をするベルゼブブ様。
最初から書類が残っているやらなんやらで居ないフルーレティ。悲しげな表情を浮かべた後に急いで土下座謝罪を始めたニスロク。戸惑い立ち尽くすタルキマチェ。
食卓は最早混乱の最中に在った。
煌びやかな照明達は黙して其の場を見守り白の長机布に何時もの時間に置かれている筈の食事達は姿を見せず空虚が座しているのみ。
「申し訳ありませんベルゼブブ様!!このニスロク賢明を賭して努力いたしましたが叶わず、全ては私めに責任が有ります!首を落とすなら如何か私だけに!!」
「……………」
「あの…ベルゼブブ様現代の世の風潮もあります。其れに地獄は農作物が取れる環境に在りません。ですので一夜だけでも耐えて欲しく……」
「………」
あーもうどうしよっかな此れ。
――――タルキマチェの思考は若干投げ遣り気味になっていた。
地獄は土に栄養分が含まれておらず雨も降らず何時も暗く太陽も登らない為農作物が一切育たない。其れは此の地獄の元々の性質であるからか豊穣神の力をお持ちに成っているかの人でも豊穣を齎す事が出来ない程。
タルキマチェはベルゼブブを心から尊敬しているし如何にか役に立てないかと何時も模索している。
(だが此れと此れでは話が違うだろう!!!)
額には冷汗が流れ其れの五倍位の量の冷や汗をニスロクは搔いていた。緊張の空間が流れる。
ニスロクは土下座の儘固まりタルキマチェは擁護しようとした体制の儘固まる。
あまりに短く感じる長い時間を経験し絶望した顔のベルゼブブは段々真顔に戻り口を開けた。
「そっか……」
一番背筋が凍る返答。二人の緊張感は頂点にまで達していた。
そんな二人の気も知らないでベルゼブブは朗らかに語り始めた。
「遂に来たかぁ……判った、じゃあよし!遣るか」
決意を固めた様に椅子から立ち上がるベルゼブブにタルキマチェは当惑しニスロクは少しだけ視線を此方に遣っている。
「え……その、何をでしょうか…?」
何処からか取り出した鍬を肩に鬻げ呆気らかんとした顔で云った。
「え?決まってるじゃん、【レタス造り】」
「…………はい?」
*
ベルゼブブの館の裏側。
開けた土地に耕された土達。その土地の真ん中に佇む鍬を持った農作業姿の三人の男悪魔達。
「最悪です……結局レティも巻き込まれましたし……ハァ…疲れた」
「フルーレティ体力なさすぎじゃない?まだまだ行けるよ?私」
「流石ですベルゼブブ様」
「アンタが……体力莫迦なだけだろ…!」
地獄の環境は農作物を育てるのには適さない。其れが地獄の理だ。
だが其れをベルゼブブ――バアルは書き換えて見せた。地上の王豊穣神バアルが書き換える理は己が領域とする農業の部類が一番得意だ。
先ず地獄の土を栄養分を持たせるように理を改変し其れが農作物を育てれる程にし人間界からバアルが最も好んでいたレタスの種を栽培できる環境に整える為に土を耕しているのだ。
地獄の赤を含んだ土は今までにない程煌めいていると感じる。
乾いた砂粒の様な土はは豊穣神バアルの手によって栄養を持つ事の出来る人間界へ近い土へと変貌していった
ベルゼブブは語った。
何時しか自分が大が着く程の好物のレタスが採れなくなる事は予想の範疇であった。
故に其の非常事態がために考え続けていた対策が此れだ。
地獄での農業
莫迦げた字面だがそれを可能とする力がベルゼブブには合った。
地獄ではレタスが美味しく、瑞々しく育てれる様にベルゼブブが世界の理を改変しまくり改変しまくった。大きな改変は流石に引っかかる為ギリギリ怒られない範囲を攻めて。
「取り合えず、はぁ、最悪の事態は回避出来ましたね…」
「お前最後の方居なかっただろうが、」
互いの言葉を耳にし睨み合う直属の部下を背にベルゼブブは
「レタス、少しの間食べれないのは辛いけど頑張ろね!」
と零した。
~小噺の小噺~
農作業終わり、先に自室に戻るベルゼブブを確認し気を図っていたであろう料理長ニスロクが館の裏手の影から出、フルーレティとタルキマチェの前に立つ。
「あの、お二人共今回大変迷惑をかけてしまいまして…此れ、御詫びの品に…」
恥ずかしがりつつ背から林檎包菓子を取り出し差し出した。綺麗な小麦色に輝き桂皮の馨しい匂いが両者の鼻を突いた。
「此れは此れは……とても美味しそうですね」
「レティ達に…良いのですか?」
「ええ私の得意料理、エデンの園の林檎を使った御菓子です。御詫びの品で私のほんの気持ちですので」
エデンの園の林檎。其の言葉に両者は固まる。
アダムとイブの楽園追放の物語を知らない程二人は世間知らずでは無かった。
唖然としたようにフルーレティは呟いた
「エデンの園の林檎……原初の罪…レティ初めて見ました…」
「善悪の知識の木にに成る……禁断の果実」
「どうぞどうぞ二人共遠慮せず食べてください!」
悪意なく笑顔で微笑むニスロク。
二名はあの伝説の果実を目の前にたじろぐがニスロクの笑顔には逆らえず意を決し菓子を口に運ぶ。
滅茶苦茶美味しかった
~小噺の小噺【終】~
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