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あなたの救世主  作者: 社容尊悟
最終章

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94/99

「……椎菜」

「外は夕立なんでしょう? やむまで雨宿りすれば良かったのに、どうしてそんなになるまでずぶ濡れになったの。まるで猫みたいよ。捨て猫みたい」

 敦也の表情も相俟あいまって、そう見えたのだろう。香名は敦也をいつも叱る。敦也は香名を見た瞬間、どうしようもなく抱きたい衝動に襲われて、濡れた手を伸ばした。

「ごめん。ちょっと」

「……何? つめた」

 敦也は椎菜の頭を抱え、抱き締めていた。冷たい身体で彼女に触れるのに、躊躇ちゅうちょがないわけじゃなかった。できることなら、湧き上がる熱を抑えたかった。敦也にぎょしきれるほどの熱じゃなかった。自分よりも小さくて愛しい彼女を、どうしても身体の中に収めたかったのだ。そうして敦也は人肌の温もりを感じていた。香名は迷惑がっていたが。

「どうしてそんなことをするの」

「どうしてって……ごめん。抱き締めたいって思ったから」

「どうしていつも、私に優しくしようとするの」

「お前が俺に優しくしてくれたから」

「どうして私を生かしたいなんて思うの」

「好きだからに決まってんだろ」

「どうして私の決意を……っ、踏みにじるような真似をするの!」

 香名の語気が荒くなっていく。香名は瞳を潤ませ、敦也を睥睨へいげいした。涙ぐんで、敦也の胸を叩く。力のこもっていない拳で、敦也を困らせた。床に滴がぽたりと落ちる。

「どうして嬉しいなんて、思わせるのよ!!」

 綺麗な顔が、いつものポーカーフェイスが、紙みたいにくしゃくしゃになって崩れ去る。大粒の涙を溢れさせ、抑えてきた激情を、弱音を吐き出す。

「生きたい、生きたいよ……。死にたいけど、生きたい。敦也、敦也ぁ……。どうして私をそんなに愛してくれるの? なんで私のために、あなたは頑張ってくれるの? なんで私なんかのために……そこまでしてくれるのよ。でもダメなの。私は生きちゃいけないの。死ななきゃダメなの……。死なないと、私は救われない……。みんなだって、死んじゃうの!」

「お前に死んで欲しくなんかない! お前は俺を変えてくれたのに、なんで俺には変えさせてくれないんだよ。こんなにお前に生きて欲しいって言ってるのに、それじゃ足りないのかよ!?」

 何度同じことを叫んだか、数えるのも飽きた。敦也は想いをぶつけて、香名を執拗に責め、優しく抱き締めた。大事な人の心が知りたくて、思いきって抱いたのだ。

「ごめ……なさい……」

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