③
「でも……、お前はやっぱりすげーイイ女だよ」
トントン、サクサクと野菜を切る音が厨房に響く。
大文祭は次第に終わりへと近づいていく。五、六、七、八とときが経過していく。三日目のように自然災害に見舞われることなく順調にミッションをクリアし、徐々に終息へと向かう。と同時に、刻一刻と香名との別れが訪れてしまう。永遠の別離の日は近い。これが痴情のもつれだったならば、別れが悲しくはならないのに。もう二度と現世で会えないと思うと、しがみついてでも、縄で縛ってでも彼女の自殺を止めたい。だけど、彼女は死ななければ救われないのだとも気づいているから、生かすことができない。
彼女が敦也と出会ったのは、別れるためだった。この世から永遠にさようならをするためだった。敦也が何度嘆きの言葉を叫んでも、頑として移ろいゆくことはない。頑固一徹で公明正大で眉目秀麗で傾国傾城な香名椎菜の心は、ずっと閉ざされている。生きていれば、罪の意識から逃れられない。彼女に生きて欲しいと願う人はたくさんいる。それでも香名椎菜は死を選択するのだ。選択の連続である人生において、最後の選択となる――生きるか死ぬか。ここまで惰性で生きてきた香名は、自分自身を永遠の眠りにつかせることを選んだ。自ら進んで現世という柵から解放されたいと願ったのだ。死ぬことが間違いだと何度説き伏せても、彼女は肯うことがなかった。私が死ぬことは絶対に覆らない大いなる決断だと彼女は言ったのだ。敦也はそれでも食い下がる。彼女が弱音を吐いてくれるのを、待ち望む。
「……ふう……」
敦也は野外のド派手な太鼓演奏を見つめながら、物思いに耽っていた。
九日目はほぼ後夜祭。大文祭のラストを飾る二日間は、太鼓演奏や阿波踊りといった演目で、日本の伝統芸能がメインだ。歌って踊るライブと違って、日本独特の文化を集結させた祭りなので外国人観光客も押し寄せる。来場者も若年層より大人や老人が増える。特に、昭和世代に人気の祭りなのだ。考えたのは学生だが。
十日目にはフォークダンスがあって、告白大会も行うのだそうだ。学生が考えそうなイベントで、ちょっぴりこどもっぽい。敦也はみんなの前で香名に告白することを考えている。
メガホンを持って法被を着た陽太が、敦也の隣に来た。腕に腕章もつけている。
「ねえ、どう?」
「どうって何が」
「香名さんと。うまくいってる?」
「いや。いってない。いってないから、明日すんだよ。告白」
「おお……。僕が考えた告白大会に出るつもりなんだ」




