②
敦也の部屋にまで眩しい朝が来る。目を潰すような目映い日差しが、冷めていた敦也の心を燃やす。血を滾らせ、神経を研ぎ澄ませと大脳が命令を下す。香名の声が、覚醒を促す。敦也は伸びをして、布団から起き上がる。
――今日は……五日目。
終盤に差しかかる折り返し地点に到達した。ラストスパートにはまだ早いが、みんな最初の頃と比べて対応に慣れてきた。新入生達が接客のノウハウを学んだかのように、てきぱきと動いている。相手の要望を予測して行動に移せるのは、一流の接客業を学んだ学生だからだ。なので、敦也はこうして寝坊して休んでも許される身分になれた。
みんなに任せても、大丈夫だ。自分一人が頑張らなくても、大丈夫だ。
……それに、もう誰も自分のことを役立たずとは言わないだろう。
「敦也! 早く起きて。お布団干さないと、でしょう」
目をつり上げた香名が敦也の部屋にやって来て、母親のように叱った。
敦也は頭をがしがしとかいて欠伸をすると、香名は機嫌を損ねた。
「もう起きてるよ」
「今何時だと思ってるの? もう十時過ぎてるわよ。誰かに何も頼まれてないの?」
「ああ……うん」
生返事をする敦也の頬を引っ叩き、香名は布団を持つ。唸って目を擦り続ける敦也を見た。
「あなたが夜中に汗をぐっしょりかいているせいで、湿気るから。洗濯は朝早いうちにやらないとダメなの。洗い物も残しておいてはダメ。掃除も毎日しなくてはダメ。家事の基本よ」
「俺、家事できねえし……」
「私がいなくなったときのために、家事のなんたるかを教えてあげないとダメね。来なさい」
掠れた声を出す敦也を見下ろして、香名は敦也の手を取った。面倒見の良さはピカイチだ。
小一時間ほど説教を食らわせ、香名は敦也に厳しく家事のノウハウを叩き込んだ。
覚えるまで朝飯は抜きだと言えば、敦也も本気になると思ってのことだろう。実際、朝飯抜きがいやな敦也は、必死に家事の知識を叩き込んでいた。呪文のように唱えては、実践を交えて覚えていった。すべてを覚えるのに、たったの一時間しかかからなかった。
吸収力が段違いになった教え子を見て、香名は口元に笑みを刻んだ。
厨房で敦也に朝飯を作らせ、香名は後ろで腕を組んで監視している。
「やっぱ椎菜は鬼だよな……」
「再確認するほどのこと? 私は最初から厳しかったじゃない」
「マジマジ。すげーお前ってキツイ女。敵に回したらダメなタイプ」
敦也は茶化すように言う。薔薇のように美しく、般若のように恐ろしい女性が香名だ。
「あなたの敵になることはないわよ。味方である方が私は厳しいの」
香名は敦也に笑いかけた。敦也は言葉に詰まって、口をへの字に曲げた。




