①
辛くも厳しく楽しかった夏休みが終わり、大文祭の準備に追われる。教員達に信頼されるようになった敦也は、陽太と共に期待を寄せられている。香名への信頼は特に篤い。香名が大手企業に就職することを全く疑わない教員達が気の毒に思えてきた。香名は就職する前に大きな波紋を呼ぶつもりなのだ。それが、彼女が最後にしたいこと。迷惑な話だと思う。生きていれば、いいことはいっぱいあるのだと敦也は教えたい。
――お前が教えてくれたんじゃないか。
陽太は大文祭でこき使われ、話す機会もない。一人でいることが多くなった。が、陽太以外の男子学生と話す機会が増えた。このまま陽太以外の学生と仲良くなると、陽太との仲がこじれてしまいそうだと危惧する。嫉妬とは違うが、自分が今まで良くしてやっていた奴が他の奴と仲良くしている様子を見てどう思うだろうか。調子に乗るなと怒りを覚えるのではないだろうか。少なくとも、敦也ならばそうだ。いくら人間ができている陽太でも、怒りを覚えるだろう。頑張っているときに暢気に他人とお喋りしていたら、苛つくはずだ。
同じ学科のみんなに要望を訊いて回って、敦也も準備の手伝いをした。汗水垂らして働くのが気持ちいいと思った敦也は、アルバイトを始めてみようと心に決めた。勉強の邪魔にならない短期間のアルバイトなら、香名も許可してくれるだろう。シフトもうまいこと組んでもらって、お金を稼いでみたいのだ。お金を稼いでみれば、貧しかった両親がどれほど頑張っていたか、わかるようになる。物の大切さも、わかるようになるだろう。
敦也は木製のショーケース作りをしている。トンカチで釘を打ちつけ、垂れてきた汗を袖で拭う。
床で作業している敦也の傍に、男子学生がバケツと見本を持ってしゃがみ込む。
「大守、ペンキでこう書いてくれるか? それで看板が完成するんだ」
「了解。終わったら声かける」
「サンキュー。待ってる」
看板とバケツと見本を手渡され、敦也は依頼を請け合った。他に頼まれたことは、全クラブへの差し入れと教員達に最終確認、食べ物の試食など多岐に亘る。安請け合いしてしまったとは考えない。やれることは全部やるつもりだ。前までの自分と違うことを、敦也は行動で証明していく。みんなに認められたい。未来を切り拓いていきたい。誰かのために生きたい。
後輩達に慕われるような先輩になることが、今の目標である。奔走する陽太に相応しい友人として、みんなの仕事を手伝っている。本来ならほぼ関係のないことで、第三者の立場である。敦也はそんなことを気にせず首を突っ込み、仕事を掻っ攫う。颯爽と現れては軽快に獲物を盗んでいく怪盗のように。スピーディでスムーズな仕事っぷりに、周囲は唖然とする。敦也の隠された才能が、遺憾なく発揮されていく。




