③
あってもいい暴力というのは、あるのだろうか。法律では禁止されているが、敦也は香名の行為を肯定しそうになった。それはもう、暴力とはいわない。少々使い古された言葉だが――愛の鞭だ。愛がなければ相手に説教を垂れることはできない。暴論になり、暴言になる。垂れられて嬉しいものではなく耳が痛くなるが、説教とはそういうものだ。
香名は膝を立てて、整った顔を乗せた。小さくて細い顔が、脚線美を誇る脚の上に。柔和な笑みを湛えて、頬の形が崩れる。慈しみを含んだあどけない顔。魔境へと誘う。
「……もっと教えて。あなたがしてきたこと。後少しの時間を、私と共有して」
「……え、」
敦也は硬直した。
「私はいっぱいお話した。あなたの口からは、まだ聞いてない。あなたのことを教えて。あなたと過ごしてきた峯くんのことでもいいわよ。あなたの口から直接聞きたいの」
香名は目を細めて、願いを言った。夢見る少女のような幼い表情をしていた。
「つまんない話ばっかだよ。聞いても後悔すんなよ?」
「大丈夫よ。私、敦也も峯くんも好きだもの。好きな人の話を聞いて、つまらないなんて思うことはないわ。つまらなかったら、好きじゃないのよ。どうでもいいの」
「ああ、そうだよ。俺もお前もお互いに好きだもんな」
「意味は違うけどね」
「何回も言うなって」
「しつこく言ったら、私のこと、嫌いになるでしょう?」
「ならないよ。お前のことは、ずっと好きだよ」
香名はぶすっと頬を膨らませて、きっぱりと言い切った。
「あなたに嫌われなきゃ、私は死ねないの。さよならできない」
「おうおうおう! 絶対嫌わねー。誓う」
香名の傷ついた顔を見ると、香名に言われたどんな罵詈雑言よりも傷ついた。
夏休みの大半は香名と二人で遊んだり勉強したりしていた。それというのも、祖父母は敦也と香名を日本に残して海外に行ってしまったからだ。携帯に添付画像つきでメールをしてきては、バカンスを満喫しているようだった。二人の進展を願っているのか、暫く留守にしている。もうすぐ夏休みが終わるのに、祖父母たちは帰ってこない。二人で外に行って遊んで来たらどうかという内容も送られてきて、敦也は香名と二人で夏祭りに行くことにした。近所で開催される夏祭りだ。花火が鮮麗で、名物になっている。屋台の催し物は二の次だ。
香名が浴衣を着つけてくると言うので、敦也は待ち合わせ場所で待つことにした。
――前みたいなことにはならないよな。
二度あることは三度あるというので、事故に遭遇することがないかひやひやしていたが、無事に祭りの広場へ着いた。樹齢百年ほどの木の前に置いてある、三人掛けのベンチに腰かけた。




