①
本格的に夏がスタート。季節は移り変わって夏真っ盛りで、風が潮を運んできてちょっぴり蒸し暑い。香名は太陽を浴びると、紫外線の放出量と日焼け跡が気になって仕方がないらしい。『日焼けした後って痛いのよね』などと愚痴を零している。敦也は男なので日焼けは気にならない。こんがりと焼けた小麦色の肌は、男らしさを無限に醸し出すからだ。
縁側で西瓜を食べながら空をぼんやりと眺めていると、風鈴がなくても涼しげに感じる。
口の中に広がる甘さが、敦也に柔和な刺激を与える。ざらざらとした舌触りに遊ばれて、賛美歌を口ずさむようにリズミカルに食道へ流し込まれ、敦也に幸福をもたらす。好物を口にして快感を得ることは、人間の三大欲求のうちの一つに該当する。残りの二つは性欲と睡眠欲といわれているが、人によっては異なるのだろう。
咀嚼された西瓜の残滓が敦也の臓腑を満たし、旬の食材を口にすることで夏の訪れを告げる。
青々とした空に白い雲。綿菓子のようにふわふわで美味しそうに見える。しかし暑いので、ファンタジックな思考回路は大量の発汗と共に現実に引き戻される。摂氏三十九度を超える蒸し暑さで夢を見ることも叶わない。身体中の汗腺が開き、汗を滴らせる。汚れるので、二人は尻の下に今治の高級タオルを複数枚重ねて敷いている。香名家にレジャーシートはない。
「種飛ばし、昔よくやったな」
「そんな下品な遊び、私しなかったわよ」
「その割に、どんなことだか知ってんじゃねえか」
「こうやって爪で弾くことでしょう?」
香名は西瓜の種を手の平に乗せて、片方の指で爪弾きをする素振りを見せた。その遊び方だと、種弾きになってしまう。香名はお弾きという遊びも知らないのではないだろうか。缶蹴りもケイドロも知らないのではないだろうか。香名が大学で同年代の友達を作って遊んでいるところを見たことがない。同性と話しているところに遭遇しても、友達という雰囲気ではなかった。どこか一線を画す壁を隔てているような、そんな人付き合いの仕方をしていた。
狐っぽく目を細めた呆れ顔で、敦也は手を横に振った。
「違う違う」
「……違ったからといって、実演してみせることはないのよ?」
「こうやるんだよ」
敦也は皿の上に残っていた西瓜をガツガツとかっ食らって、種を前方に飛ばした。香名は口に手を当てて、素っ頓狂な声を上げていた。端から知らない人の反応だ。何をされても動じない不動明王のような香名が、見るからに青ざめている。そして香名は憤り、敦也の顔を掴んだ。
「ななな何をするのよ、あなたは……! 庭が汚れるじゃない……!」
「いへへへ。ひひはほ……へふに……」




