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あなたの救世主  作者: 社容尊悟
第七章

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 香名に侮られ蔑まれる視線を送られ、敦也は新たな扉を開きそうになった。蛇に睨まれる蛙のようにならず睨み合えば、扉の前で踏み止まれた。あやうかったが、もし香名に手を引かれて脚を撫で回していたら、陽太の気を揉ませてしまう結果になっただろう。香名を好きな陽太の胃に穴が開いていたかもしれない。

「お前も結構な割合で手が出るけど。っつか、暴力女」

「馬鹿叱咤。痴漢撃退。実力行使はこの二つの場合だけよ。目を覚まさせるためね」

「んだその四字熟語。……さっきの、痴漢ってことか」

「ご賢察」

 香名はふふふと可愛らしく笑った。普段は堅苦しくて面倒臭い、真面目一直線の堅物かたぶつだが、茶目っ気があって、ちょっぴりこどもっぽいところもある。少女のような趣味はないようで、案外ある。食堂でメニューを選ぶとき、彼女は甘いものを選ぶ。ショッピングに出かけるとき、ファンシーで可愛いものを選ぶ。好きなものを好きと言って、存分に人生を謳歌している。傍目には自殺願望者には到底見えないほど、楽しそうに生きている。本当に人生を終わらせたいと思っているようには見えない。これも彼女が言っていた、嘘吐きの振る舞いなのだろうか。あれは心から喜んでいるのではなく、空元気からげんきに振る舞って見せているだけなのだろうか。

 香名が敦也の心を知れても、敦也は香名の心を知れない。深層心理を見られない。

 香名のボディランゲージは複雑で、敦也の推理を迷宮へといざなう。

 香名が敦也を信用していない証拠なのか……、それとも嘘にまみれた自分を矯正できないだけなのか。敦也が香名を、心から信じられないように、香名も自分の底を見せないのか。未だ謎に包まれた絶世の美女を最期まで通すつもりなのか。

 ――……こいつのこと、まだわからない……。

 彼女の言葉はいつも矛盾していて、支離滅裂で不明瞭。本当の心は、真意はいつ伝えてくれるのだろうか。彼女は敦也と過ごした日々をどう感じているのだろうか。

 笑顔の裏に隠された答えを、敦也の足りない経験値では、感じ取ることはできない。


 陽太は順調に支持率を上げていったが、対抗馬となる学生に一歩及ばない状態だった。そんな陽太に相談を持ちかけられた。敦也が陽太に相談することはあっても、陽太が敦也に相談することは少ない。陽太が人に相談するほど弱るのは珍しい。役に立てるようにと敦也は香名も連れて三人で話し合うことにした。勿論、場所は食堂だ。

 香名はうなって片目を瞑り、分析した事柄を陽太に容赦なく告げた。

みねくんが会長ね……。副会長の方が適任だと思うわ。あなた、みんなを引っ張っていくようなリーダータイプではないもの。それに、副会長は他に立候補者がいないでしょう? 即決じゃない。成績は相手の方が下のようだけど、いかんせんカリスマ的人気を誇っているし、あなたには付加価値がない。決定打に欠けるのよ。弁舌の才能があるわけでもなし。あなたは彼のように、みんなを洗脳させられるような言葉を操れるかしら?」

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