③
「あなたが医師になりたいって思ったのは、あなたの意志でしょう? それはあなたの意見ということ。誰かに指図されて決めたことでないなら、それはあなたの意見。人は皆死すれば魂の根源の場所へと還る。いきつく先が皆同じでも、過程は皆違うものなのよ。大きな差異があり、僅かな差異がある」
「みんなを見てて、なりたいって思ったんだけどな……」
「医者になれっていわれたんじゃないでしょう? だったらそれは、あなただけの意見」
「これもマイノリティってか?」
「いいえ。オンリーワンよ。マイノリティよりも、もっと希少価値のある意見」
「そうかあ……?」
敦也は頬杖をついてぶっきらぼうに答える。香名の意見を納得できずにいた。何が言いたいのか、よくわからない顔をして、ペットボトルの茶を呷った。香名の意見は、たまに飛躍することがあって、ついていけなくなることもままある。ついていける人は、香名と同じ天才に座する人なのだろうかと敦也はペットボトルのキャップを閉めながら思慮する。
こうして敦也が香名の話を理解できないでいると、香名はいつも悲しそうな顔をする。香名の話は難しくて、聞いているこっちも疲れるのだと敦也は心中で毒づく。日頃頭を使っているので、頭を使わないで済む話もして欲しい。息抜きがてらに無駄話がしたい。
「椎菜って料理とかできる?」
「当然よ。家事全般プロ並に得意に決まっているじゃない」
「今度手料理作ってくれよ」
敦也が提案すると、香名はジャブで躱した。
「シェフの料理、食べたくはない? 私の手料理より、シェフの料理の方がいいわよ」
「わかってねえなあ……。お前の作ったのが食べたいんだって」
「だから……何度も言わせないで。私と敦也は義理の兄妹の関係なの。居候でも、養子という扱いなの。恋人じゃないの。そういうシチュエーションは待ってないし、義理でも兄妹でそれは気持ち悪いと思う」
「偏見持ち」
「一般論と言って」
香名は踏ん反り返って腕や脚を組んだ。ミニスカートからちらりと覗く、艶めかしい脚が眩しい。日光に照らされる一輪の花の如き光輝が、敦也の目を焼く。敦也は喉を鳴らした。先程潤したばかりの喉が、乾いてきた。香名に見透かされているとわかっていても、敦也は無意識のうちに手を伸ばしてしまう。香名に手をはたかれて、ビンタの刑に処された。
「ちょい、出来心で……」
「若気の至りね……」




