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「んだよ、それ」
「私だから、この脳力に耐えられるのよ。あなたの精神力では無理ね。女の精神力を嘗めないことよ。男の精神力よりも遥かに上なのだから」
香名の言うように、精神力が強い女だから子を産めるのだ。男の精神力では出産の肉体的、精神的苦痛には耐えられないと考えられている。聖書の一節によれば、女が苦しんで子を産むのは禁を犯したからだとか。『原因究明物語』と学者達の間で題されている。原因究明物語はバベルの塔も有名だ。世界の言語は一つだった。人間が神に近づきすぎて怒りを買い、塔という名の翼をもがれて、統一されていた言語が散り散りになってしまったという話だ。
原因究明物語を読み解いていくと、子孫繁栄は禁断の果実に手を出した人間への重い罰ということになる。蛇に唆されたくらいで心が揺れて、神の言いつけを守らなかったイブが悪いのだ。聖書の書き手は、女は馬鹿で愚か者だといっているようなものだが。
考え方は多種多様で神からの愛と考える説もあるのだが、やはり人間が禁を犯したことに対する罰の説が有力だろう。
男が子を産めるようになることは、この先ないだろう。人間の世界では女が子を産むことは天地開闢の時代から決まっている。女が子育てをするという意見は昨今では少なくなってきたが。青天の霹靂が起こり得ぬ限りは、一生女が子を産み続ける。母なる大地は、無限に広がってゆく。だからこそ、母は父よりも大きな存在で、偉大なのだ。
「でも私は、こども産まないけれど」
「また俺の思考を読みやがって……産む前に死ぬとかほざいてるもんなあ」
「ほざくは余計よ。どうしてみんな、あんなにこどもなんて欲しがるのかしら。自分の身体が二つに分裂するようで、気味が悪いわ。中学のときの体細胞分裂の話で、出産を思い出したの。しかも、あんなところから出てくるのよ……。おぞましい……。いやな気分だわ」
子を産む身体を持っていながら、香名は出産を非常に嫌悪している。敦也はこどもが好きなので、香名の意見には賛同できない。言い返した。
「お前だって分裂して生まれてきた奴だろうが。気持ち悪いとか言ってんなよ。マイノリティだぞ。差別だぞ。こども可愛いだろ。天使だろ」
「べつにいいわよ、それで。多数決しているわけじゃないんだから。私だって、人間なの。少数派の意見くらい、持ってる。なんでも多数派でないとダメだと言うのなら、それは病気だわ。周囲に合わせたがる病気。己の意見を持たない人間の言うことなんて、無価値だわ」
香名は批判的な意見を返す。言い方は悪いが、言っていることはやや正しい。
「俺は自分の意見を持ってないって?」
「あら、そんなこと言ってないわよ」
敦也と香名は二人して痴話喧嘩を始めるように、顔を突き合わせて頭突きをした。石頭で額が広い香名の頭突きは強烈。勢い余って、火花が炸裂しそうだ。大袈裟だが。




