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あなたの救世主  作者: 社容尊悟
第六章

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 触れたら自壊してしまいそうだ。病んでいる心をさらけ出す香名を、敦也は抱き締められなかった。抱き締めたら、そのまま逃避行でも実行してしまいたかった。強くて弱い彼女の心を、溶かすことはできないだろうか。こんなに心を開いてくれているのに、過去の話を屑々(せつせつ)と語ってくれているのに、何もしてやれない。何もできない自分が悔しい。恨めしい。もどかしい。恥ずかしい。ただ傍にいて、彼女の刻々と迫りくる死を見届けることしかできないのだ。

 ――俺は……やっぱ、こいつには相応しくねえな……。

 童話に出てくるような白馬に乗った王子様なら、もっと気の利いた言葉を言えるのだろう。

 その日は一日中勉強して、ぐったりと死んだように眠った。




 束の間の休息は終わり、また一週間が始まる。電車通学だったが、香名家の養子になったので、車で送迎してもらえることになった。陽太がこの話を聞いたら、羨ましがるだろう。電車通学でも勉強は怠らないようにしたと思うが、車の中だと勉強もはかどる。優秀な家庭教師もついていることだし、殊更ことさらに。最高の環境を提供してもらえているのだ。受からなかった、なんて絶対に言いたくはない。絶対に受かろう。

「そこ、暗記し直して」

 香名に問題の箇所に指を差された。赤いペンで訂正される。

「マジ? 間違ってるか……」

「文字自体は間違ってはいないわ。繋げ字で書いていたでしょう。細かいところが間違ってるから、早めに修正した方がいいの。こういうところで手抜かりが出てしまうと、せっかく覚えているのに、もったいないことになる。一点が命取りになるわよ。あなたは一点でも多くの点を稼がなくちゃ。満点で合格するくらいの意気込みを持って臨みなさい」

「そうか……覚え直す」

「あなたならできるわ。なんてったって、私がついているもの」

「だな。お前がいれば、百人力だ」

「百万人力よ」

「マジでそうだから、なんとも言えんな……」

 敦也はこめかみを押さえて、くしゃくしゃに笑った。香名もクスリと笑った。

 最近、香名はよく笑うようになった。敦也がそうなったから、香名も笑うようになったのかもしれない。これは劇的な変化と言っても過言じゃない。香名の笑顔は誰よりも美しく、素敵で無敵な笑顔なのだ。見られる日は滅多にない。彼女の笑顔一つで、至上のさちを得られる。

「もっと笑えよ」

「……そう言われると、笑いたくなくなるわ」

「俺の前でだけ笑えよ」

「もう恋人じゃないんだから」

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