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「そうだな。俺も過去を変えたいと思ってたけど……変えられないんだよな」
「起きてしまったことは変えられない……わね」
「ああ。変えたいけどな。俺たちは人間なんだよ。お前の言うように、ただの人間。何にもなれやしないし、何にも変われない。この世界に住んでいる、ちっぽけな生き物だよ」
そこで一度閑話休題する。湯気が立ち上る玉露茶を啜り、敦也は先程の話をした。
「お前の親父さんが、お前の頭を撫でてくれようとしたんだよな」
「そのときは未遂だった。私が脅えていたから」
「親父さん、怖かったのかよ」
「怖くてたまらなかったわね。だって、いつも鬼みたいに目を光らせて、私を厳しく叱ったから。母は飴と鞭の人だったけど、父は鞭しか持っていなかった。今思えば、不器用な人だったんだわ。昭和生まれの人って、体罰も平気で受けてきたでしょう? そういう時代だったもの。人に厳しくされてきたあの人達は、いざ子を持つとなると、人に優しく接することができなかったのかもしれない。親は子に、自分と同じ境遇の教育を施すものだから。ある意味、親が子を虐めるのは、小さな人間社会への復讐なのかしら。……怖くて、嫌いだった。何度も香名家を逃げ出したいと思ったわ。なんでこんな家に生まれたんだろうって、境遇を恨んだりもした。だって、誰も私のことを理解してくれないんだもの。強力な霊感のことも」
普通の人とは格が違う家に生まれたのだ。感性も違えば、比較の対象も違う。他の女性のように仕事をして恋をして結婚をして子を産んで、一人の女性になりたいと思ったことだろう。誰かと寄り添いたいと恋する乙女のような夢を描いたこともあっただろう。香名が自分の幸せを願わないのには理由があるが、敦也は香名にも幸せになって欲しいと願う。愛する相手が自分でなくても、敦也は構わないと思っている。
「理解者がいても、多分私は変わらなかった。哀れなシンデレラのまま、私は王子様に会うこともできなかった。出会っても、王子様は私を選ばない。私とは縁を切るの」
「俺は切らないぜ」
香名は首を振った。心の弱さを押し出すように、ぽたりと畳にしみを作っていく。
「私を選ぶと、その人は死ぬの。強制的にこの世と縁が切られるの。私は人の運を吸い取って、その人を殺してしまう。私はそういう星の下に生まれたの。今までずっとそうだった。私を好きになって告白してきた人は、みんな例外なく死んだわ。その人が死んで、私が生きるの。私が死なないと、その人は死んでしまう。……父は私を認めてくれた――。その矢先に、二人は交通事故に遭って亡くなったの。なんで、私を認めてくれた人は死んでしまうの? なんで、私はいつも人を殺してしまうの? もう少し、褒めてもらいたかった……。二人と、もっと親子になりたかった……」




