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あなたの救世主  作者: 社容尊悟
第六章

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 敦也は本格的に香名に勉学のコーチをしてもらうことになった。香名の言っていた通り、教えるのが大変うまかった。敦也が理解できないところをすべて理解し、敦也のレベルに合わせて教示していく。一瞬も迷うことなく、一瞬も言いよどむことなく的確にアドバイスをした。教えてもらった甲斐あってか、敦也の脳力はぐんぐん成長していく。香名に教えてもらえれば、なんでも詰め込めるような気さえするのだ。一つ疑問に思うこともある。

 ――お前、本当に役に立たない人なのかよ?

 敦也は勉強部屋をもらって、机に向かって勉強していた。広さおよそ十畳もの部屋だ。勉強部屋にしては広すぎて寂寥感が漂うのが難点。夜になると物静かで不気味。幽霊でも出てきそうなからくり屋敷のようで、気が気でない。この歳になって一人でトイレに行けないというわけではないが、何か出ようものならちびりそうになる。

 ばりばり勉強した後は、小休止を挟むようにと香名が玉露茶ぎょくろちゃをお盆に載せて持って来る。生まれてこのかた、風味豊かで苦味と渋味しぶみのある茶を飲んだことがなかったので、敦也のお気に入りになった。香名家に厄介になるまで、敦也は麦茶とほうじ茶の味しか知らなかったのだ。現在のブームは煎茶せんちゃと玉露茶とハーブティーだ。金持ちが飲みそうな茶を、敦也はことごとく好きになっていった。貧乏暮らしだった頃の反動ではないだろうか。香名に玉露茶をもらい、しばし休息を取る。香名は部屋の中央で正座した。

「もう私が教えなくてもいいのね」

「いや……まだ教えてもらわないといけねえとこ、山ほどある」

 香名がすり足で、敦也の机まで近づいていった。痛くはないのだろうか。

 敦也も椅子をきしませて、畳の上に胡坐をかいて座る。赤本あかほんと呼ばれる試験対策問題集を見せた。香名が髪を掻き上げて、覗き込んだ。色香のあるうなじに、敦也はドキリとする。甘い苺の香りが鼻孔をくすぐり、一種の酩酊感めいていかんに襲われる。

「こ、この問とか……」

「この問ね。ここはね、こうするの」

 香名は敦也から赤本とシャープペンシルを奪って、書き込んだ。

 敦也はわからないところを躊躇ためらわず、香名に訊いていった。香名は訊けばすぐに答えて、答えを見ても理解できない問題の解説もしてくれた。すべてが頭に入っていて、すべてが彼女にとって他愛もない日常会話と同レベルなのだ。香名が最高ランクの大学で首席を取れると豪語したことも、あながち間違いではないことを、身を以て実感した。

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