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香名家の長女として生まれた香名には、一つ下の妹がいた。妹とはいつも比べられ、香名が家長に相応しいかどうかを競わされていた。香名は生まれながらに天才で、人よりも成長が早く、目まぐるしい功績を上げた。対する妹は勉学においては天才でもなく秀才でもない。優れた者でもなかったために、姉の香名よりも厳しい教育を受けていた。妹が姉の香名に憧れ、憎らしげに見ていたことを、香名も知っていた。
香名はどんなことでも一時間ほど勉強すれば、すぐに応用ができるようになった。香名の妹は一時間勉強しても基礎すら習得できなかった。完全記憶が可能な香名の理解力を、何十倍も下回る。程なくして、香名の妹は、障碍者であったことが判明した。きっかけはほんの些細な出来事で、香名の同級生と同じ障碍を持っていたのだ。発達障碍という、人に理解されにくい爆弾。彼女はアスペルガー症候群である。現代では自閉症スペクトラムと診断される。敦也も別の発達障碍を持っているので、香名の妹に共感して、感銘を受けた。
それでも必死に頑張って、追いつこうとしても絶対に追いつけない姉に追いつこうとしていたのだ。称賛せずして、どうしようか。
発達障碍といえば、天才を生み出す装置のようなもの。発達障碍者は天才的なサヴァン症候群を持つ可能性もある。敦也はサヴァン症候群ではないが、天才的に学術方面に特化した頭脳――ギフテッドだ。世の中の偉人のうちの何名かは発達障碍者だったことが、今になってわかった事例もある。当時は理解されない、頭のおかしい人といわれていた天才でも、現代では理解されつつある。障碍者への理解は、人類の進歩だろう。
その発達障碍者だった妹に、香名が一つだけ勝てなかったところ――それは、芸術の才能。なんでもできてしまう香名が、唯一負けを認めて降参した項目だ。香名の家は芸術の才能といっても、華道や茶道しか念頭に置いていない。なので、香名の妹が天才的な絵を描いたり作詞をしたり、その他のクリエイションを得意としていても、認められない。郷に入っては郷に従えというように、香名家では蚊帳の外にされてしまう。底知れない才があるのに、戦力外通告を受けるのだ。香名が妹の才能に気づいて、妹を元気づけても、妹は聞く耳を持たなかった。あんたには関係ないとの常套句で、陳腐な台詞しか交わしたことがなかった。姉なのに、妹に何もしてやれないと香名は何時も歯噛みし、陰で悔し涙を流していたそうだ。
香名家が生業としていることは、工芸、陶芸、書道、華道、茶道だったのだ。
香名が家督を譲られる頃には、妹も高校を卒業していて就職を考えていたようだった。妹は自身の特技を生かして芸術の道に進みたいと言ったが、親は猛反対。できもしない家業を継げと無理矢理やらされた。由緒正しき一族なので、離反することは決して許されない。それでも妹は姉と一緒にいるのがいやで、家を抜け出した。抜け出しても、大成せず誰にも相手にされなかったそうだ。才能があっても、見出してくれる人がいなければ、なんの意味もない。今までは香名家という後ろ盾があったから、色々な人に相手にされていたが、個人で活動したところで香名の妹は権力のないただのこども。誰にも相手にされず、誰の目にも留まらなかった。




