⑥
「あなたの好きなネタは何?」
「玉子とか烏賊とか……はまち」
「そう。こどもね。私は雲丹や蟹が好きよ。海老も好きだわ」
「……お前もたいして大人っぽくないけどな」
「減らず口」
ムスッとする香名が滑稽で、敦也はプッと口の中で笑った。
「叩いてるように見えるか?」
「見えるわね。偉そうにしてる。敦也のくせに、生意気」
「お前こそ……。俺の方が誕生日早いんだぞ? 年功序列なんだろ? 俺のこと敬えよ」
「敬うところが一つもない」
「んだとぉ?」
「いい気にならないで。私より出来のいい脳味噌になってから文句を言いなさい」
敦也と香名は顔を突き合わせて、いがみ合い唸り合った。出会った当初は、運命的な出会いだなんて思っていなかった。ただ通り過ぎるだけの一般人と一緒だと敦也は思っていたし、こうして話し合えるような仲になるとも思っていなかった。百面相で面白い人だとも知らなかった。こんなに表情豊かで愉快な人だと知らなかった。怒ってばかりで冷血な奴だと勝手に思い込んでいた。そうじゃないのだ。香名はとても正義感が強く、とても優しい人なのだ。ちょっと言い方がきつくて、すぐに手が出るだけで、性悪なんかじゃない。出会ってから、話し合ってわかったこと。敦也は微笑んで、優しい言葉をかけた。
「お前と会えて、良かった」
「……私も」
「お前と話せて、良かった。お前のこと知れて、良かった」
優しい言葉を口にしたら、相手の気持ちもわかる。香名が目を細めて瞳を潤ませていた。肩も唇も震えさせて。涙をハンカチで拭き、嬉し泣きをしている。心が温かくなって、優しさで溢れ、愛に包まれる。すべては愛に収束し、淡い恋心を明確に意識させる。この人が好きだ、と。この人でなければダメなのだと。この人と恋がしたい。この人と愛を知りたい。この人と共に歩みたい。この人をもっと深く知りたい。
「お前のことを、教えてくれよ」
香名は嗚咽を漏らし、鼻を啜った。癖なのか、袖で涙をちょんと拭う。一呼吸ついて心を落ち着けてから、香名は話し出した。つまらない話だけど、と香名は前置きする。
「最後まで聞く」
「その前に、寿司屋さんに着いてしまうかもしれないわ」
香名はまだ赤い鼻を指でつついて触り、にこりと笑った。




