③
「本当ね。あなたはそういう人だもの。看護師さんやお友達に医師になりたいだなんて言い出すなんて、ビックリよ。人に夢を語るのは、怖くないの? なりたいものは、あまり人に話すことではないと思うけど。話したら、実現させなきゃいけなくなるでしょう。プレッシャーに圧し潰されてダメになっちゃうかもしれないじゃない。プレッシャーを力にできる人なら、言ってもいいのだけど。あなたにはまだそれはできない。夢物語を語っているだけに過ぎないでしょう? 夢を語るのは、現実の過酷さを知らないこどもがすることなのよ」
「またお前は俺の知らないところで俺のことを……」
「あなたのことは、夢で見ているの」
「……俺専用のストーカーか……」
「神があなたと巡り会うようにって言ったから」
「……スルーしていい?」
「どうぞお好きに」
と言いつつ、香名の目はとろんと溶けていた。無視されるのを好む人はあまりいない。
「お前は俺が役員選挙に出ようと思ってるってことも、知ってるわけ?」
「勿論。あなたがどうしたいか、知ってるわよ」
「何か、アドバイスとかねえの?」
「医師になりたいのでしょう? なら、寄り道しないで勉強しなさいよ。迷わず、一つだけを選びなさい。あなたが役員に立候補したからといって、必ず受かるという保証もない。今のあなたにカリスマなんてないわよ。その時間が無駄になる。無駄にしたくなければ、早急に取りかかるべきだわ」
「……おっしゃる通りだな……」
「あなたは要領のいい人ではないのだから、一つのことに集中しないとダメ。二つも三つもいっぺんにやっても、何もものにできない。すべての時間が無駄になる」
香名は敦也と違って要領も良く、頭もいいのですべての時間をものにできる。今こうして敦也と話している時間も無駄ではないのだろう。自身の糧とし、自身の血潮に変えられる。天才とはそういうもので、常人にできないことを平然とやってのける。天才にとっては、無駄な時間なんて何一つないのだ。
凡人が天才を理解しようとしてもできない。天才が凡人を理解しようとしてもできない。敦也と香名が理解し合える部分があるとすれば、それは自分を責めるということ。他人を責めずに、自分を責めて自分を苦しめるところが彼らの似ているところだ。両者はそこに惹かれ合い、助け合おうと思っている。或いは、傷の舐め合い。互いに慰め合って、心の隙間を埋めようとしている。香名には、慰めなど無意味かもしれないが。
「お前の言うように、医学部受験の勉強をすればいいんだな」




