⑪
「はい。助けたいです」
「……そうきたか……。強いな、敦也くん。あのね、怒らないで聞いて欲しいんだけど」
足の裏が地面につく。最後まで辿り着いた。折り返し、元来たところまでまた一歩ずつ歩く。
「これは私の予感……なんだけどさ。私、きみに嫉妬してるんだよね。なんとなく……きみが医者になれる姿を思い浮かべられてさ……。芯の強さも感じられるし、凄く頑張り屋さんで頭も良さそうだし。すっごく、なんというか、もやもやする気持ちがあるんだよね。私が必死に勉強しても叶わなかった夢を、きみなら叶えられる気がするから……。しかもなんか、大物感出てるって言うの? だから、ちょっとな~って思うとゆーか、なって欲しくないなあとゆーか……。ああダメ。こんなこと考えてるから、医者不足がいつまで経っても解消されないんだわ! バカバカバカ私のバカ!」
看護師は頭を抱えてポカポカと殴り出して、でかい独り言をぼやく。面白い人なのだが、何を言ったらいいのかわからない敦也は当惑している。
「えーっと……」
「ごめん! やっぱ、今の忘れて! きみは医者になった方がいいと思う! 絶対よ!」
「は、はあ……」
「でも一つだけ、リスクを教えておこうかな」
「お願いします」
「手術をするとき、救済処置として同意書にサインしてもらうんだけどね……それでも手術に失敗したら文句をいう人もいるの。手術を万能だと思っている人もいるから。医者も万能じゃないし、医療も医薬も万能じゃない。医者は神様じゃないんだよ。その手助けをする私達だって。新種のウイルスもどんどん発見されるし、日々敵は進化していく。進化を食い止める薬でも作れたら、その人は世界を救えるかもしれない。新種のウイルスを絶滅できたら、その人は賞賛される。執刀したすべての手術を成功させたら、世界中の人に尊敬されるかもしれない。そのぐらい、難しいこと。だから、失敗することも考えておかないといけない。私たちのサポートも完璧じゃないし、間違えることだってある。日々勉強の世界だよ。少しでも気を抜いたら、この世界とはお別れ。人の命を救うっていうのは、そういうこと。矜持がない人は、やっちゃいけないの」
私にはプライドがあるのだ、と。
「私はこれからも、人の命を救いたい。人の役に立ちたい。世界中の人々を笑顔にしたい」
「俺もそうです。命を何度も助けられて、そう思いました。俺もそんな人になりたいです。他人に誇れるような、そんな人になって……両親に俺は価値のある人になれたぞって言ってやりたいなって。俺は無価値で役立たずの、ダメな奴なんかじゃなかったって言いたいですね」
立派になった自分を見せることは、敦也なりの、彼等への恩返しだ。見返したいわけでも、復讐したいわけでもない。自分を育てたことに意味はあったのだと、自分の価値を世界に示すことで、彼等の心を闇の底から救いたい。無駄なんかじゃなかったのだと、胸を張って言えるような人になりたい。だから、医者になりたい。




