⑩
敦也とコミュニケーションが取りたくて仕方なかったのか、単に自分の意見を語りたかったのか、どちらでもありそうだ。コミュニケーションが取れない看護師は看護師として致命的なので、傍から見ていてもお喋りが多いようにも思える。同僚との話も多ければ、患者との話も多い。話しかければ、たくさんのことを話してくれる。向こうからも話しかけてくれる。興味を持って接してくれる。看護師も医師も忙しいときは話しかけにくいが、自分に時間をかけているときは話し合える時間をくれる。彼等は多忙なので小一時間も話はできないが。いつか、もっと話し合えるようになればとも思うが、そうしている間にも患者はどんどん増えていく。だから、患者である以上は彼等とのコミュニケーションはビジネスライクでしか成り立たない。もっと話したいと思うならば……
自分も医療従事者になればいい。
「あの……も一個、質問いいですかね?」
「んー? 答えられることなら答えるよ」
「医者になるのって、難しいですか?」
「……敦也くん、きみって、結構変わってるね」
看護師は目を丸くして、感心したような声音で返した。
「そうですかね? あんまり人には言われたことないんですけど」
「そっかー。んー、そうね。簡単ではないと思う」
「そうですか……」
「私が必死に勉強して通れなかった道だからね。壁は厚かったし、何度も挫折したよ。看護師にはなれたけど、医師にはなれなかった。言っちゃ悪いかもしれないけど、きみよりももっと挫折した回数は多いから。たった数年程度で挫折したって言うのも、どうかと思ったのは事実なんだよね。生きてきた年数も違えば、やってきたことも違う。私は小さい頃から医者になりたいって夢を持っていたけど何百回も挫折して、結局夢は叶わなかったよ」
「そうなんですか……」
かける言葉が見つからなかった。どう言えばいいか、わからなかったのだ。
看護師の方も、慰めの言葉は不要と言わんばかりに、軽く笑みを浮かべた。
「きみがどれだけの情熱をかけられるか、それが問題かな。自分の寿命を削ることになっても、自分の時間を潰してでも、自分の他の趣味を放り投げて捨ててでも、きみは人の命を救いたいと願うのかな? 自分を犠牲にする覚悟は、あるのかな? 私はいろんな人を助けたいと思ったよ。世界中の人々、私の持てる力で救いたいと思った。今でもそれは変わってない。きみは助けられる? 人を助けたいと思う? 自分が嫌いな奴でも、自分が憎いと思った奴でも、世界中の人を敵に回した人でも、分別なくメスを取れる? 愛情を注げる?」
看護師の神妙な面持ちの詰問。看護師は面接官のように、敦也の覚悟を試す。
敦也は寸秒も迷うことなく、確と頷いた。




