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あなたの救世主  作者: 社容尊悟
第四章

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 敦也を轢き逃げしていった加害者は、近くにいた人がナンバープレートや人相を覚えていたことにより、足取りを掴むことができた。一瞬で完全に記憶する記憶力には舌を巻く。

 犯人は車からはすぐに下りたようだが、目撃者がいたり、指紋が残ったりしていた。詰めが甘い。目撃者の人相描きを頼りに、鑑識が犯人を特定。正義感に満ち溢れた人々の、流れるように華麗な捜査に屈し、犯人はお縄についた。

 どうやら、敦也を敵に回したのが、間違いだったようだ。

 すべての人間の指紋は国が管理しているものではないので、指紋を採取したところで年齢や性別は特定できない。だが不審な人物を目撃した人がいれば、その人相に似た人に協力してもらって、犯人の指紋と一致するかどうかが明らかになる。警察の捜査を断れば、自らは怪しい人物であると自白しているようなものだ。協力しない人はやましいことを隠していると勘繰かんぐられるのは、世のつね。求められれば、人々は捜査に必ず協力しなければならない。

 犯人の指紋が見つかったのは、ハンドルだけではない。さまざまなところから同一人物の指紋が発見された。犯人は逮捕され、今現在は拘置される身だ。手術費用とばかりに賠償金の支払い命令も出るかもしれない。被害者の敦也が外出不許可で裁判所に出向できないので、裁判は開廷しない。幸い、後遺症も残らないそうなので、快復したら示談金で事なきを得る予定だ。

 ――飛び出しちゃった俺も悪いんだし、あまり大事にはしたくないよな。

 これで、ひとまずは義理の祖父母に迷惑をかけずに済む。敦也はほっと胸を撫で下ろす。

 あの人達は迷惑だとは思っていないだろうが、敦也は手を焼かせたくはないのだ。あんな優しい人達から金をこってりしぼり取るような真似は、したくない。どんなに金を持っていようとも、じり貧だった敦也にとって、金は一銭でも大事。金がかかる、手のかかるような義理の孫になりたくない。温かい家庭を体験できるだけ十分だ。できることなら、迷惑になるような一切合切はかなぐり捨てて、悪縁も根元から断ち切りたい。

 老い先短いかもしれない優しい彼等に、自分のことで心労させたくない。

 リハビリテーション室にいる看護師が、大きな声で敦也に声かけをする。

「敦也くん、頑張って。後少しだから」

 敦也はスロープを握り、ちょっとずつ脚を動かした。前に前にとはやる気持ちを抑えながら、ゆっくりと床を裸足で踏みしめていく。床の感触が伝わり、皮膚が温度を知覚。ひんやりとしていて硬い床。動けば動くほど痛くなる身体。歯を食い縛り、生きているという実感を覚える。

 ――俺は今……、ちゃんと生きてる。

 以前までの敦也なら、頑張れって、何を頑張ればいいのかと反抗していたかもしれない。今までずっと頑張ってきてダメだったのに、今更何を頑張れと。馬鹿らしくて、何もできなくなってしまう。今まではそうだった。これからは違う。やりたいこともできて、叶えたい夢もできた。それに向かって頑張ろうと、努力しようと敦也は思っている。

 まずはここから、一歩を踏み出す。進みゆく足で未来を、明日を迎えに行こう。

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