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「何意味不明なこと言ってるのよ。頭大丈夫なの?」
「あなたよりよっぽど頭がいいと思うけれど。至って正常。息子のことを愛さず、死んだ人間のことばかりに気を取られて、ちゃんと見ていないじゃない。死んだ人は死んだ人。この世にいない人のことばかり考えるな。弔いたいときに向き合えばいい。あなたが見るべきは、生きている人。ここにいる大守敦也。あなた、生きていて恥ずかしくないの? 養っている、ですって? どこをどう見たら養っているように見えるって言うの? それは主観でしょう。嫌々やっていることを養っているなんて言わないのよ。仕方ないからやってやってるっていう考えなんでしょう? そんな気持ちでこどもを産んで不幸にするな。こどもを否定するなんて、親失格よ! 幼児から出直しなさい! あなたみたいな人は、こどものために一所懸命に働いて、血を吐いて苦しめばいい。一生、懸命であればいいのよ!」
頭の回転が速い香名は、いつも正論を吐く。手を出さなければ、香名は正しい人だと敦也も思っている。早口でまくし立て、反論を許さない。口を挟ませない。いつも悲痛な表情で、血を吐くような言葉を並べる。この世の悪を嫌い、この世の悪人を嫌う。そして、自分のことを最も嫌い、最も殺したいと思っている。己の無力さとちっぽけな存在感を嫌っている、正義感の強い女性。ヒーローみたいな悲劇のヒロイン。
香名が訴えられるのではないかと敦也は心配している。相手はあの母親だ。いつヒステリーを起こすかわからない。……そら、きた。わなわなと震えた母親は、香名を指差して、負け犬が如く慌てふためいた。
「あ、あああなたこそ……私に手を上げた! 見ず知らずの私に手を出したわ! これは傷害罪に値するんじゃなくて?」
香名はにっこりと微笑んで、母親と会話のドッヂボールを続けた。
「そうね。訴えたければ訴えればいいわ。そしたら、あなたがこれまでしてきたことも露呈するようになって、あなたも裁判にかけることができる。私はどうなっても構わないのよ。だから、気にしていない。刑の重さはどちらが上でしょうね? あなたは人一人の人生をめちゃくちゃにした張本人なのだから、軽く十年くらい刑務所の中かもしれないわよ、虐待者さん? 幼少からずっと言葉責めをして、彼を自殺にまで追い込んだ……自殺教唆かしらね? 時効なんてないわ」
敦也にしたことが、ごめんで済む問題ではないことを母親は知っていたようだ。香名に言われるまでもなく、母親は金に意地汚く、こどもを不幸にした最低な人間だ。息子の気持ちを何一つ考えず、自分の考えばかりを優先する。『病気だから』を言い訳にしていいはずがない。人を傷つけたのなら、それなりの代償は払わなくてはならない。そんな最低な人間だった母親は、香名の主張を受け入れつつあるのだ。
いつだって香名は正しく在り、人を良き方向へと導く。敦也も彼女のことを敬い、尊ぶ。
「私はどうなってもいい……。あなたに、一つ条件を出そうと思います」




