①
敦也が目覚めたのは、手術から三日後。
それまで深い眠りについていて、全く起きなかった。全身麻酔が切れるのは、術後すぐくらいなのに。敦也は意識不明のまま緊急搬送された。心肺停止状態ではないが、暫く目を覚まさなかったのだ。幸い、脳に後遺症は残らなかったものの、失ったものは大きかった。
敦也の家は貧乏なのに、多額の手術費がかかることを、母親が許すはずはなかった。母親は親の風上にも置けないような物言いで、敦也を勘当した。身体が本調子でない敦也に心身への負担をかけるような、酷な一言だ。その場にいた香名が、敦也の母親の頬を引っ叩いた。
「あなた、それでも本当に親なの?」
「……あなたに、何がわかるって言うのよ! ろくに金も稼げないような息子を養うことが……どれだけ大変か……。愛する人もいなくなって、私がどれだけ苦労してきたか……あなたみたいなこどもに何が! なんの苦労もしたことがない、あんたみたいな箱入り娘に! 何がわかるって言うのよ!」
「ここは病院です。お静かに。敦也君のお身体にも障ります」
母親がぶち切れて仕返しをしようとしたのを、看護師が宥めて落ち着かせた。母親は香名を睨めつける。腹を空かせた獣のように憤る母親に、真正面からぶつかっていく香名。冷静に相手を見据え、敵愾心を粉々にさせる正論で、右ストレートを放つ。
「わからないわ。あなたのことは。でも彼のことはわかる。彼は寂しがっていて、愛に飢えている。あなたの役に立ちたいと、今でも思っている素直な人なの。真面目で、頑張り屋さんで、ちょっぴりおバカなところもあるけど……あなた達がもっと立派な人間だったら、もっと早くに世界へ旅立つはずだった。彼の成長を遅らせたのは、足手纏いだったのは、あなた達親よ。あなたが彼と向き合わないから、自殺なんて考えたのよ。この私と同じ道を歩もうとしていた。すべてあなたのせい。あなたが愛情を持って接さなかったから。あなたは責任を持って、彼の今後を見届けるべきよ」
「……」
「私なんかより、彼の方がずっと役に立つわ。この世界の、ね……」
霞む目。ぼんやりと眩む天井。息がし辛く、喉が痛む。敦也が今どんな状態なのか、知ってか知らず、か、香名と母親は敦也のことを話し合っていた。看護師は邪魔者と言われているようで不快といった表情で、こっそりと戸を開けて出て行く。
声が出ないので、敦也は二人の様子をずっと見ていることにした。敦也が覚醒したことに気づいているかどうかはわからない。
「あなたがいれば、彼は救われない」




