⑫
敦也は香名との初デートの待ち合わせ場所を、大きな時計のある公園にした。
日曜日になり、待ちに待った初デートの日がやって来た。遅刻しないように、早めに起きて支度をする。適当に服を見繕って、貧乏に見えないよう工夫した。
香名は持つ者なので、金持ちの家に生まれている。みすぼらしい格好をしていけば、恥をかくのは必至。彼女に釣り合うような人間でなくてはならない。外見だけでも。彼女が恋愛や恋人をどう思っていようが、敦也は香名とデートができて嬉しいのだ。香名ほど人を救いたいという願望はないが、どうにか香名の考えを変えられないかとは思っているのだ。
香名の才能を、美貌を泥の中に埋まらせてはいけない。
――あいつが俺を救えるなら、俺もあいつを助けられると思う……。
金を使わなくても、行ける場所はたくさんある。貧乏なりに、エスコートしてみせると敦也はガッツポーズを取る。プライドくらいはあるし、彼女に奢らせようなんて思っちゃいない。靴を履いて、オンボロなアパートを出た。十分あれば、公園に着く。待ち合わせ時間は十三時なので、あと三十分はある。徒歩でそこまで行くことにした。公園前の信号で、信号待ちをしていると、一人のこどもが道路に飛び出した。友達とじゃれ合っていて、ひょんなことから黄色い点字ブロックを踏み越えてしまった。つんのめるように、前に前にと出てしまう。
「うわっ」
「あぶな……」
手を伸ばす敦也。場所が入れ替わり、こどもを突き飛ばす。敦也が前に出た。道路の中央に。
――……っ!
反射的に飛び出した敦也の横――肉薄する距離を、暴走する車が通り過ぎようとしていた。あのときとは違う。悪意ある心が、優しさを持ち始めた敦也の心を打ち砕く。
そいつは、どんな顔をしていたか?
鈍い音が、赤黒い鮮やかな色が。宙を舞う。
倒れ伏す敦也の周りには、血だまりができていた。力のない、生気の抜けた顔。見る見るうちに失血していく。誰が見てもわかるほど重体で、今にも黄泉に誘われそうな空気を纏い。
断末魔の叫びのような、悲痛な悲鳴が轟く。叫声と憤怒と焦燥が空気を震撼させた。
なんでも知っているはずの香名は、敦也が今日事故に遭うことを、知らなかった――。




