⑨
「悪くはないけど……あなたが私より上だなんて確証はどこにあるの? あなたは自分がバカだってことをきちんと理解しないと。自覚しないと前に進めない。わかる? あなたはバカなの。大守くんはバカ。大バカなの。誰よりも愚鈍で愚昧で愚直で、愚問ばかりの愚か者なの」
「……お前、俺のこと、本当に好きなのか?」
「好き。大好き」
香名が頬を染めて答えたので、敦也は「おう……」と小さく返事をした。
素直じゃない香名が素直な言葉を口にすれば、大打撃を食らわされる。傾国傾城の美女なのだから、心をぶち抜かれるのは至極当然のことだが。突然の赤面は心臓に悪い。
「私のレベルを百としたら、大守くんは一にも満たないレベルよ。全くたいしたことない、凡人も凡人。才能なし。今のままでは、何にもなれずにのうのうと生きるだけの凡愚よ」
「そこまで言うなよ……」
「私の才能は既に認められているもの。あなたの才能はまだ開花していない。今踏み出したばかり。これから成長していく可能性はあるけど、立ち止まったらダメなのよ。あなたは努力し続けるしかない。私はひらめきも実力も才能も持っているけど、あなたには努力しかない。何もかもが足りないの。でも、努力はできる。人一倍、あなたは努力ができる人なの。真面目で勤勉で一所懸命になれる人なの。それを捨ててしまったら、ダメ。誰だって、やろうと思えばできることなの。それが……努力。そうすれば、私には追いつけなくても……誰かに勇気を与えられる、とても素敵な人にはなれるから」
「……そうか。そいつはいいな」
勇猛果敢な戦士を脳内に思い描く。誰よりも傷だらけで誰よりも自分のために生きる。それが巡り巡って、誰かのために生き、誰かに勇気を与える唯一無二の、絶対的な存在となる。
自分が、誰かを救うヒーローになるのだ。
「誰よりも素敵な人になれたら、なんて幸せなのかしらね。私もそんな人になりたい」
「お前はもう素敵だよ、香名」
「そんなことない。私は嘘吐き。嘘吐きは嫌い。いつまで経っても私は嘘吐きで、素敵な人にはなれない。虚言癖のある、自殺志願者のくだらない人間よ。私は自分が何よりも嫌い」
「もう自殺したいなんて、思ってないだろ……」
香名は暗い顔をして、微笑んだ。
「俺に生きろって言っておいて、自分は死にたいなんて我儘すぎる。なんなんだよ、お前。自分勝手に俺を救っておいて、最後まで面倒見ないで自分は死ぬとか、クソじゃねえか。あんまりだろ、そんなの。発言、撤回しろよ。自殺したいとか、思うな」
「仕方ないじゃない。生きる希望なんてないんだから」




