⑦
客員教授がベタ褒めするほどの才能を、香名は持ち合わせている。男の自分よりも女の香名の方が才能に満ち溢れていると聞いて、嫉妬しないはずがない。才能を認めつつも、彼女に妬いている。なんで自分の前で他人を褒めるのか、と敦也は香名を憎悪している。
いじらしいが、憎らしい。
「……先生。俺は、凡人なんですか」
「はい?」
「なんの才能もない……ただの凡人で、何もできないただの凡人で、なんの価値もない人なんですか? 俺じゃ、ダメなんですか? 天才には敵いっこないんですか? 競い合う前から、俺の負けは決定なんですか? あいつは勝ち組で、俺は負け組なんですか?」
客員教授は、敦也の悲痛な叫びを感じ取り、息を呑む。敦也が思いをぶつけてくるので、客員教授は思いに応えかねている。どんなことがあったのかとも訊かない。否、訊けないのだ。
敦也が物凄い剣幕で、問い詰めてくるから。
「やっぱり……俺にはなんにもないんすね」
敦也はがっかりとして肩を落とし、暗い顔をした。
「あいつは持つもの持ってる苦悩なのに、俺にはなんにもない。……何も変えられやしない……。調子に乗らなきゃよかった……。俺なんか、やっぱ……生きてる価値ないよな」
客員教授は何か声をかけようとしていたが、敦也は教室を出て行った。
――俺じゃ、あいつには敵わない。最初っからわかってたよ。あいつは選ばれた奴なんだって。俺なんかじゃ相手にもならないって。けど、面と向かってそう言われると、心にくるな……。
敦也はため息をつきつつ、次の講義まで図書館で時間を潰すことにした。
次の講義は経済学。経済学の講義は香名と一緒に受けている。が、敦也は講義に出る気になれなかった。グループディスカッション形式だから。役割分担をしてから意見の出し合いをするグループディスカッションは、みんなと向かい合って話をしなければならない。さっきの客員教授の話を引きずっていた敦也は、どうせ推薦されることがないのならば、ちょっとくらいサボタージュしてもいいだろうと学校社会を舐めているのだ。
やる気のない学生は、どんどん置いていかれるというのを、敦也は知る由もない。たった一時間半の講義で、伸び代のある学生はめきめき根を伸ばしていき、花が咲く。自分が遅れていることはわかっているのに、焦りすらない。敦也がボーっとしている間に、みんなは百歩も先に進むのだ。学生のうちは、学ぶ時間を無駄にしてはいけない。貪欲に知識を吸収していかねばならないのに、サボってしまったら、終わりなのだ。
休憩するのは、今しかできないことをやってからにした方がいい。
敦也は手近にあった書庫から、哲学の本を取り出して、パソコンが置いてある席に座った。




