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「推薦するには、実力が足りませんね。もっと研究してください」
「そうですか……」
「はっきり言ってしまいましたが、気にしないでくださいとも言えません。私達が教えられる範囲のことを学ぶ程度では、教授にはなれませんよ。たくさんのことを独学で身に付けていってください。……例外もありますが、教授になるのに何十年もかかったりしますし。博士号を取ったからといって、すぐに教授になれるわけでもないですからね。段階があります」
「段階って?」
「初めに助手からスタートして、講師、准教授、教授となっていくのです。私はそうして何十年もの時間を費やしてなれました。私と同じ方法で教授になった先生方ばかりですよ。すぐに実力を認めてもらうことはできないんです。ここでは客員教授ですが、私の地元の国立大学では名誉教授をしています。色々な大学で学生達に教示し、世界を股にかけていますよ」
「そうなんですか……凄いですね」
「人によって、どれだけの年数がかかるかはわかりませんし、ポストが空いていればすぐにステップアップできます。空いていなければ何十年経ってもそのままですね。私と歳が変わらないのに、未だに講師をしている人もいますでしょう?」
「はあ……。それって辛くないですか?」
「辛いと思います。実力があっても出世できないのですからね」
客員教授は穏やかに苦々しい笑みを浮かべた。努力して出世したからこそ、その人の痛みや苦しみがわかるのだろう。客員教授は人の良い、朗らかな女性だ。憧憬さえ抱いてしまう。結婚するなら、こんな人がいいと敦也は場違いな考えを持った。
「世の中がその人に追いついていなければ、実力は認められないのですよ」
敦也は香名を思い出した。
「出る杭は打たれます。私のように他者の実力を認めて、才能を伸ばすことを良しとする人ばかりではないのですよ。社会に出れば、悪意ある人に潰されてしまう才ある者もいるのです。あなたの傍にいる彼女だって、教授になれる器なのに、先生方は推薦することを良しとしていないのです。推薦は恐らく、不可能でしょう。彼女もとうの昔に諦めています」
香名が教授になることを諦めている……? 敦也は客員教授の言葉を心中で否定した。
「彼女からお話は聞きましたか?」
「……聞いていません」
「本人が言っていたことですよ。教授にはなりません、就職しますと言っていました。大学院に行かずとも、彼女には必要な知識が山ほどあるのですからね。お金の無駄と判断したのでしょう。話し合いはどんどんしていけばいいでしょうが、独学の方が、彼女には合っています。彼女は一人で勉強した方が、効率が良いのですよ。才能に恵まれた人なので、大学に行かずともどんな環境、どんな場所でも類い稀なる才能を発揮したでしょうね。私でも、彼女の発言には驚かされてばかりです」




