①
香名と付き合い始めて三週間後。口を利いてくれなかった陽太とやっと仲直りできた。
「えええっ! 香名さんと付き合うって、なんで。またどうして……」
陽太の叫びが、食堂に木霊する。陽太が身体ごと動かしたので、テーブルに置いていた二つのブザーが僅かに動いた。学生達がチラッとこちらを一瞥したが、すぐに自分たちの世界に戻った。講義ではないため、他の学生が迷惑を起こしてもたいして気にしないのだ。講義中だと、大抵はみんな静かにしているので、五月蠅さが耳障り。邪魔なのだ。食堂では喧騒は当然。よって、各々(おのおの)食事とお喋りに集中する。他人に目をくれてやることはないといった風に、喧しくなる。
「いや。それがな……」
敦也は頭をかいて、言い訳をした。陽太にギロッと睨めつけられ、敦也はタジタジ。
「ずるいなあ。僕が狙っていたのに」
陽太が頭をくしゃっとかき回して、苦い顔をした。失恋が決まっているのだ。しかもその相手が友達とくれば、それはもう複雑な心境だろう。応援したいのに応援できない。奪いたいのに奪えない。陽太は真面目で優しいので、愛の簒奪者にはなれない。ドロドロした関係にはならないので、敦也は安心している。大人しく引き下がるしかできない。当て馬になるくらいならば、諦めた方が賢明だと思っている優しくて賢い男だ。
「好きにならないって言ったくせにさー。嘘ばっか!」
「俺と似ててさ……」
「勉強熱心で成績最優秀者の香名さんが、敦也と似てる? そんなバカな~。グレードポイントアベレージ4.0だって。将来の就職先ももう決まってる。先生達が自慢げに語ってた。まだ二年なのに、とんだ贔屓だよね。香名さんって、大企業の社長でもやっていけそうだし。でもあの人だから、贔屓されても許せるんだよね」
グレードポイントアベレージは端的に言えば、数字が高いほど成績がいい。最高は4.0。秀評価は九十点以上。赤点の不可評価は零から五十九点。不可評価の烙印を押されると、単位を落とすことになる。必修科目だともう一度講義を受けなければならない。教授も学生もがっかりだ。教授の采配によっては、稀に満点を取れることもある。
「げ。俺、2.6しかないし……」
昔の敦也なら、こんな底辺の成績は考えられなかったが、大分やばい状況だ。
「僕は3.6だけど。敦也それはまずいんじゃない? 今のうちに、役員とかやっといたら?」
「無理だろ。役員とかって、成績優秀者か、教授に気に入られてる奴しかなれないし。俺、ぜってー好かれてねえ自信ある。やる気ねえし、クズだし」
「普通はね。でも前年度から投票制になったから、万が一という可能性もあるよ」




