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あなたの救世主  作者: 社容尊悟
第二章

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 香名は俯いて、嘆くようにうそぶいた。抑揚のない小さな声で、そらんじるように呟いた。

「私は嘘吐き……、嘘吐きは嫌い」

「……何か言ったか?」

「ううん。なんでもない。あなたと私が似ているところを教えてあげるから」

「……おい。さっさと手ぇ放してくれるか?」

「あ。ごめんなさい」

 ぱっと手を放して、香名は照れ臭そうに笑った。敦也は思うところがあるものの、深く聞こうとまでは思わなかった。聞いたら、共感してしまいそうな気がしたのだ。

 もしそうなったら、彼女のことを好きになる……ような、予感がすると。だから、手紙も燃やして捨ててしまおうとそのときは考えていた。

 それから一週間後。陽太に感づかれながらも、敦也は香名と親しく話をした。決まって、カフェで会話を楽しんだ。陽太は講義中に羨望の眼差しを敦也に何度か送っていたが、敦也は無視し続けた。厳密には恋人ではないが、友達より恋人を取ったと言えるだろう。香名と親しくなってから、手紙を手渡された。その場で読んで欲しいと香名が言うので、敦也は燃やすわけにもいかなかった。読み上げるなと香名に言われたので、敦也は黙読をした。


『拝啓 大守敦也さま

 この度はお手紙を失礼します。こちらでは初めまして、私は香名椎菜と言います。変な名前でしょう? 香名椎菜なんて。悲しいなって言ってるみたいで。私はこの名前が嫌いです。でも好き。私の大好きな人達が呼んでくれるから。あなたにも、私の名前を呼んでもらいたいと思っています。

 ところで、私がどうしてあなたに会いに来たか、わかりますか?

 わからないですよね。だからお手紙をしたためました。ここに記します。


 私は小さい頃、時折変なものが見えました。それは多分、死期が近かったからだと思います。私は小さい頃に一度死に、蘇生した人間だから。心肺停止の状態から生き返ったの。変なものというのは幽霊とかのオカルト的な類のものではなくて、幻覚。幻覚が見えていました。夢かもしれません。それはきっと誰にもわからないもの。

 その幻覚というものが、これから起きることだったなんて。

 小さい頃から何度も夢で見ていたあなたが、自殺をする夢を見ました。そしたら意識がなくなって、私は集中治療室で手術を受けましたが……なんとか三途の川を泳がずに済みました。運命だと思いました。私がまた生を受けたのは、あなたを助けるためだったのだと。神が私に与えた使命なのだと思いました。あなたと巡り会うための命を授かったのだと。

 私は後悔しないように、あなたと会う決意をしました。あなたの自殺を止めるために、私はアメリカから戻って来たのです。あなたに自殺なんてして欲しくなかった。夢の中でしか会えなかったあなたと……会うことができるのに。そんなのはいやだと思いました。

 私はあなたと会えて良かったと思います。

 何故こんなにあなたのことを気にしているのかって? 答えは簡単。

 私と同じ、自殺志願者だから。

 私もこの世界が大嫌いで、人間が大嫌いで、この世の悪を赦せない人間だから。どんなに私が世界平和を願っても、戦争はなくならない。人の不幸はなくならない。どんなに私が正義を振りかざしたところで、事故は未然に防げない。自殺者も減らない。減ったとしても、ほんの僅かだけ……。私は誰も救えない。生きる価値がない。誰よりも自分のことが嫌いで、誰よりも無力な自分が憎い。私は世界を変えられない。なんの変化も影響ももたらさない。何もできない。ただの人間なのよ。ちょっと不思議な出来事がその身に起きるだけの、無力な人間。生きていたら、自分の無力さを痛感するだけで、息が詰まりそう。苦しい。辛いよ……。

 私を助けて。

 素直になれない自分も、大嫌い。あなたのことが好きなのに、あなたに対してはいつも天邪鬼あまのじゃく。いつも余計なことをしてしまいます。そんな私でも、あなたの慰めくらいにはなれると思って。同情でもいい。だから……どうか私を救ってください。私もあなたのことを救います。

 私は嘘吐きで臆病な人間。小さくて、弱い。

 でもわかって欲しい。私はあなたのことを、夢で見たときから好きだったこと。

                                           敬具』

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