⑤
「見てしまったら、関係ないことはないのよ。それは仕組まれたことなの。私がここに戻って来たのも、そういう運命だったってことなのよ。これは、神のお導きなの。わかる?」
「はあ……? 何意味わかんないこと言ってんだよ。頭大丈夫か?」
「問題解決の役割を担わせてくれたってことよ。神が、私にね」
ふふんと上機嫌で、香名は胸に手を当てて首を傾けた。可愛らしい仕草だった。
「紙……? ペーパー? 誰かから手紙でももらったのか?」
「神、よ」
「……病院、紹介してやろうか?」
「何よ。病気扱いしないで欲しいんだけど。あなたは信じないの? 神はいるんだから」
「っつか、俺もう帰るから。お前なんかと話しててもつまんねえし」
「そう? 楽しそうに見えるけど」
香名は確信している様子。敦也がいつもよりも声が高くなっていることを示唆している。
「大守敦也。それがあなたの名前。普通ね」
「何が言いたい」
「何も。あなたの名前、憶えてあげたわよ。あなたは人。これから……ずっと人。それ以上にもそれ以下にもなれない。未来永劫に、あなたは人」
ビシッと鼻先に指を突きつけ、香名はよくわからない呪文のような言葉を口にした。敦也は香名の手を押さえて、苛々をぶつけた。さっきからしつこい、と。
「私はあなたに会いに来たの」
香名と敦也はカフェに行った。観葉植物が置いてあって、窓は西洋風のアーチ型。お洒落なテイストで、学生に人気がある。講義中は人がちらほら。喋り倒すような人はいない。皆それぞれに優雅な一時を過ごし、憩いの間としている。
入口に近い丸テーブルに行き、二人は向かい合わせで座った。
渋渋カフェまで連れて来られたが、敦也は不服だった。香名は初対面のときから印象が最悪だったし、話すこともない。香名と話をする理由も、敦也の方にはないのだ。会いに来たと言われても、性格が極悪な女に胸を高鳴らせたりしない。顔だけの女にときめいたりしない。
「なんでお前と話なんか……」
敦也は肘をついて、鬱屈していることをアピールする。香名はふふっと恋する乙女みたいに口元を緩ませた。敦也はちょっとだけドキッとした。悔しいが、やっぱり可愛いし綺麗だ。
「あなたが自殺しようとした理由、当ててあげましょうか?」
「はっ?」
「答えは簡単。人生がつまらないから」
香名は指を立てて、得意気に答えを出した。その通りだが、敦也は同調しない。頷かない。
「そんなもん、心理学やってりゃ誰でもわかるだろ」




