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「……俺も、もうちょい何かできればな……」
何か面白いものはないかと、きょろきょろと見回していたら、見つけてしまった。
一番前の席にいる、一人ぼっちの学生。
流麗で繊細な美貌の女子大生。この大勢の中でも一際輝きを放つ、凜とした麗しい容貌の女性。荒れ野に咲く一輪の花のように、見る者を惹きつけてやまない。彼女だけにスポットライトが当たっているかのように錯覚する。彼女はどんな場所にいても目立つし、他の女性など、脇役に見える。視界に入れば、忽ち目が釘付けになる。
大嫌いなのに、敦也は彼女から目が離せない。香名椎菜がどんな宝石よりも煌めいていて美しいことを認めざるを得ない。
「……くそが! くそが、くそが!」
敦也は苛々して、机をドンドンドンと何度も叩いてしまった。痛みで怒りは静まっていく。
近くにいる学生たちにギロッと睨まれ、敦也は曖昧に頭を下げた。敦也も両親も情緒不安定なところがあり、こうして時折、タイム・プレース・オケ―ションを弁えないで怒ることもある。誰かに怒られても、一切直らない悪癖のようなものだ。最近まで単なるクセだと思っていた敦也だったが、病院に行くと発達障碍と診断された。発達障碍にも種類があるのだが、敦也は自閉症スペクトラムではなく、注意欠陥・多動性障碍だった。発達障碍の一種で、英語の頭文字を使ったアルファベットで表記されるのが一般的。自身の感情をうまくコントロールできず癇癪を起こしたりすることがある。敦也は注意欠陥・多動性障碍を持つ発達障碍者だと診断されたのだ。しかしながら、敦也は天才的な学力を誇るので、ギフテッドでもある異端児だったというわけだ。
幼少期の敦也は、感情をコントロールできていたが、それは死が隣り合わせだったからと考えて間違いなかった。大人になって情緒不安定になって、頭がおかしくなったのではなく、最初からそうだったのだ。
整理整頓が苦手で片づけができないのも、つまらない講義に集中できないのも、すべてそれが原因といえる。大人になってから、発達障碍だったとわかるケースも少なくない。生き辛さは、みんなとは異なる性質を持った障碍者だったからなのだと安堵する人もいる。
敦也が気にしていても、香名は敦也の熱っぽい視線に気づかない。
香名に気を取られて貧乏揺すりを続ける敦也。退屈な時間は長く感じるものの、政治学の講義はどんどん進んでいった。敦也には長く、陽太には短い時間が過ぎていく。
講義が終わると、陽太は肩を回してご満悦の体で敦也に笑いかけた。
「今日の授業も面白かったね!」
「べっつに」
「そんなこと言わずにぃ。敦也はさあ、もうちょっと政治に興味持ったら? 先生もデモに参加してみたらどうだって言ってるし。学生の間だけだよ、色々できるのは」




