⑳
「はあ……」
敦也は起き上がり、またため息をついた。おもだるい身体を起き上がらせ、のそのそと冷蔵庫に向かった。買い置きされているできあいものだ。スーパーの格安な弁当。母親が帰って来るのは、次の日になってからなので、それまでは適当な飯を食い、適当に寝ればいい。
会社員になれない、パートの母親を尊敬する心などない。金が稼げないのは、皆同じことだ。大守家は呪われている。稼げないのに、金に取りつかれてしまったのだ。
「寿司が食いてえな……」
ぼそぼそ呟く。敦也は台所から箸を持って、弁当を卓袱台の上に乗せて黙々と食べた。一人で食べるのも慣れているので寂寥感はないが、たまには飲みに行きたくもなる。赤貧生活を続けていて飲みに行ったことがばれたら、母親は癇癪を起こす。それでも、生きていたら酒に溺れたいときもあるのだ。生きることは辛いことで、敦也にとったらそれは戦争と同じこと。歯噛みしながら生きて、血反吐吐く思いで毎日大学に通っている。すべてがつまらなくて憂鬱で、自分なんてなんの価値もない、と思ってしまうから。辛くて苦しくて悲しいのだ。
敦也は男だから、泣くことなんか、許されない。男の子だから、人前で涙なんて見せちゃいけない。男の子だから、強くなくちゃいけない。女の子を守ってやれるような、強い人間にならなくちゃいけない。
バカみたいに泣いて、誰かに慰めてもらいたいという考えも、とっくの昔になくなった。ただバカみたいに生きていくだけ。これからも、それはきっと変わらない。
あの女に出会っても、きっと変わらない――。
と、最初は思っていたはずなのに。
止まっていた歯車が動き出し、敦也の人生は、やがて大きな波を打ち始める。




