表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの救世主  作者: 社容尊悟
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/99

 息をするのを、忘れていた。呼吸困難になり、暫くして両親に発見された。救急車で病院に搬送され、意識を取り戻したときは両親が上から覗いていたが、敦也は喜悦を感じなかった。死んだような目をして、笑った。

 嘘吐きで、くだらない両親に振り回され、敦也は狂った。

「あは。あは、あはははは! アハハハハハ!」

「ど、どうしたの……」

「どうしたんですか、先生? 敦也は何かの病気ですか?」

 両親は心配しているふりをして、医師に尋ねた。

「病気……。いや、精神的なショックによるものでしょう。恐らく、酷く疲れているだけです。薬を出しておきましょう」

 ――クスリなんかで、僕の心は……。僕はいらない子。そんなもの、いらない。

 敦也は突然起き上がって、涙を流しながら叫んだ。髪の一部が白く変色していた。

「みんな死ね! しねしねしねしねしね! 死んじゃえ!」

 その場にいる全員を指差して、敦也は瞳に涙をためて悲しげに微笑んだ。

「みんなが死ねば、僕も死ぬ。……そしたら、みんな幸せでしょ?」

 医師も看護師も両親も、その場にいる全員が呆気に取られた。

 両親は敦也が反抗するような心を持っているはずはない、あれは機械のようなものだと高を括っていたのに、泣きながら死ねと連呼されたことに、驚愕きょうがくしている。敦也のその表情で良心を取り戻したのか、両親は敦也を抱き締めてごめんねと何度も言った。大量に溢れ出る涙は、嘘泣きのようにも見えた。

 謝ったところで、忘れられない。罪は消えない。それだけでは済まされなかった。

 綺麗事では金は生まれない。どうあっても運命とは変わらないもので、働き口が見つからない父親はついにぐれた。借金をしてギャンブルに溺れ、酒に呑まれ、女に遊ばれるくだらない人間のクズになってしまった。酔っ払うと暴力を振り、母親も敦也も傷つけた。たくさんの傷と恐怖を刻みつけ、父親はいい気になっていた。

 そして、現在の住居に至る。

 父親が我に返ったとき、頭を抱えて心中を吐露した。血も吐いた。畳が血で汚れた。

「……俺は……もうダメだ……。生きてる価値なんかない」

「……そうね……」

 腕に無数の打撲を負った母親は、唇を震わせ手で覆った。瞬きの回数がいつもの倍だった。

「先、逝くわ」

 そう言って、父親は胸を押さえて白目を剥き、口から大量の血を吐いた。びくびくと身体が痙攣けいれんし、やがて息絶え、無様な死に顔をさらす。母親は父親の顔を覆い、目を閉じさせた。

 畳に散らばる粉末を見て、母親は徐々に実感する。

「あ……ああ……あああああ~……!」

 目を覆い、母親は泣き叫んだ。唇を噛み、自身の喉を引っ掻いて、泣きじゃくる。父親の亡骸なきがらに身体を乗せて、おいおいと泣いた。あんなになっても、母親は父親のことが好きだったのだ。愛していたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ