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ああいう最低な人間ばかりが長く生きる世の中だ。いやになるのも無理はない。
会社が倒産して父親の仕事はなくなり、家を手放すことになってしまった。家を売ってできた金で小さな家を買って暫くは暮らせたが、すぐに貯金が底をついた。父親の年齢は若くはなかったので、就職先が見つからず途方に暮れていた。
そんなある日のこと。寝ていた敦也がいない場所で、両親は話をしていた。はずだったが、敦也は起きていて、それを聞いてしまったのだ。何がなんだかよくわからないのに、酒に溺れる父親の目が血走っていて、狂気に満ちていた。それが怖くて、まだ幼い敦也は涙した。
「……あいつが死んだら……保険金は下りるか?」
「敦也にかけていた保険金? もう払えなくなってるけど」
「そうか……」
就職浪人で困り果てている父親が、保険金殺害を考案していたのだ。
使えないなと父親は舌打ちをする。
「なあ……お前はどっちがいい? 将来がどうなるかもわかんないような奴が生きるのと、将来があるかもしれない奴が生きるのと」
「……」
将来がどうなるかもわからないのは父親で、将来があるかもしれないのは敦也。だが、父親の意見は真逆だ。
「どっちなんだよ」
「そんな風に考えるなら、一緒に死んであげるわよ。家族みんなで死んだ方が、誰も残らずに、誰も悲しまずに済むし、部長さんの家族みたいに毎日泣いて暮らさなくていい!! 毎日毎日、明日の食べ物のこととか、住む場所のこととか、考えなくて済むじゃない! こんな生活続けるくらいなら、死んだ方がましよ……!」
母親は少女のように泣き崩れて、父親の胸を叩いていた。
「……はあ……」
父親は母親を抱き締めて、ため息をついた。
「あいつの才能が、金を生み出せば良かったのにな……。敦也に商才があれば……小さい頃から金をいっぱい稼いで、養ってくれていたかもしれないのにな……。あいつはダメだった……」
敦也はビクッと肩を震わせた。涙が溢れ出し、しゃくり上げる。
二人を喜ばせたかった、笑顔にしたかった、と敦也は幼いながらも立派な志を持っていたのに。両親のどす黒い本音が、敦也を傷つけた。敦也の人格を歪めてしまった。
「本当ね……。小さい頃から習い事させているのに、お金を稼げないのなら凡人の域を出ないし。一番なんて取ったところで、たいしたことないわ。他の子のレベルが低かったから、一番を取れたんじゃないの? でなかったら、今頃億万長者になっていたわよ。才能なんて皆無。あーあ……あんなこと、させるんじゃなかった……。お金の無駄だった……。私達の時間も無駄だらけ……。最悪な人生よ……。こどもなんて、要らなかった。育てても全くお金にならない、あんな役立たずの穀潰し、産まなきゃ良かった。産まれて来なければ良かったのよ! すべてが無駄だったわ。お金は全部私達のために使っていれば、もっといい生活ができたかもしれないのに。あんなのを産んでしまったせいで……一つもいいことないわ……」
「あいつに金をかけるぐらいなら、まだ働ける俺の方がいいよな」
「そうね……。もう要らない。あの子は私たちには無用の長物だったのよ」
盗み聞きをする形になってしまった中学生の敦也は、口を覆い隠して目を見開いていた。恐怖と絶望に戦き、嗚咽が漏れて聞いていることがばれないように、息を殺した。
――僕は、いらない子。
実の両親に酷いことを言われ、傷つかないこどもは恐らくいないだろう。
どんな言葉よりも心を深く抉り、的確に弱点を突いていく。その一言が敦也を苦しめ、自傷行為をさせる。




